第一話 名前のはなし
南天はナンディナ・ドメスティカ
将軍吉宗の頃、世界共通の二名式命名法を考えたリンネ
属名+種名を憶えると、海外に行っても通じます
人それぞれに名前があるように、植物にも名前がある。よく名もない草などと言ったりするが、私達の身のまわりにある木や草、野の花たちはすべて名前を持つ。
私達は普段、和名(日本名)で植物を呼び、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、中国など世界の国々によってもその名は違う。が、ラテン、ギリシャ語でできている学名は世界共通の植物名だ。
地球上の植物を分類して、科(の中の属)と種との組み合わせで、この世界共通の二名式命名法を考えたのはスウェーデンの植物学者カール・フォン・リンネ(1707~1778年)。このころ日本は将軍吉宗の時代で、貝原益軒が活躍した後にあたり、小石川御薬園(今の東大植物園)がさかえていた。
この「学名」(ラテンネーム)は、今もって世界の人たちに利便性を提供している。偉大なるリンネは、最初から植物学者になる人ではなかったが、数学者の友人の影響を受け、植物分類学に興味を持ち、数的分類を提唱した。
今でもスウェーデンのウプサラにあるリンネガーデンは、リンネの考えた24綱(綱は科の上位ランク)で植栽区が分けられている。だからこそ、植物界の先達は「植物学を志す者、リンネガーデンを訪れること」といったのである。東北、北海道にもあるリンネソウには、記念として属名にリンネの名が付けられている。
新しく発表された学名は、世界中の植物学者が相談して定めた「国際植物命名規約」によって、新植物として植物界に入籍し、世界共通の名になる。学名は属名+種名+命名者名で構成される。
夏の花壇で咲いているマリーゴールドは、花好きの人なら誰でも知っている草花と思う。この花の学名はタゲテス・エレクタ・リンネ(センジュギク)とタ・パチュラ・リンネ(コウオウソウ、クジャクギク、マンジュギク)で、いずれもリンネが命名者である。
ウプサラのリンネガーデンには、その原種が忠実に植えてあり、訪れた際、深い感銘を受けた。中南米に30種もある原種のうち、この二つがヨーロッパに渡ったのは、センジュギクが1596年、マンジュギクが1573年と、園芸大辞典には記録されている。
ヤツデはハトシア・ヤポニカで属名は八手の発音から、ナンテンは、ナンディナ・ドメスティカで、属名は南天をラテン語化したもの、というように、学名の面白い事例はたくさんある。この際、学名を西欧のように日常語にしたらどうだろうか。
以下は、これだけを覚えておくと便利な学名(といっても属名のみでよい)ベスト・テン。
- ① コルヌス…………………ハナミズキ、ミズキ、ヤマボウシのこと。
- ② ギンクゴー………………イチョウのこと。日本音ギンキョウ(銀杏)に由来、銀行とおぼえる。
- ③ カメリア…………………ツバキ、サザンカのこと。
- ④ ローザ……………………ハマナスも含め、バラの仲間はなんでもローザ。
- ⑤ ヒ(ハイ)ドランゲア…アジサイの仲間。ノリウツギもアマチャも全部。
- ⑥ チューリッパ……………チューリップそのもの。
- ⑦ ナルキッスス……………スイセンのこと。
- ⑧ リリウム…………………ユリの仲間は全部リリウム。
- ⑨ イリス……………………ハナショウブ、カキツバタなどアヤメの仲間なんでも。
- ⑩ ロードデンドロン………シャクナゲのこと。ツツジでもよい。
ちなみに、タキイやサカタ、第一園芸などから送られてくる花のカタログを開いてみよう。そのほとんどは学名(その多くは属名のみで種名ははぶいてある)。ライラック、ヘレボルス、バーベナ、カメリア、ベゴニア、クレマチス、アカンサス、ゼラニウム、アルストロメリアなどなど。ということは、街角にある花屋さんで呼ぶ花の名前も、最近はその大半が学名そのもので、カトレア、バンダ、オンシジウム、シンビジウムなど洋ラン類は、全て学名で呼んでいる。
川上幸男 著
B6変型判 / 並製 / 301頁 / 定価1362円(本体1,238+税)/
ISBN4-900358-40-1
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