第一〇三話 砂漠のはなし
ナビブ砂漠の〝陸のコンブ〟
何もない砂漠に生きる――その名は〝奇想天外〟
地球上の砂漠化か問題になっている。湿原も、乾燥化かはげしいのが最近の傾向だ。日光戦場ヶ原はだいぶ以前から、尾瀬湿原は最近の問題となっている。原因は人為的なもので、人や車が自然界に入りこんで来たためと見られている。このように多くの人は死んでいると思っている砂漠にも、生活している植物があるという例を紹介したい。乾燥を好んで生きているのか、嫌だけどじっと耐え忍んでいるのかではだいぶ違うが、その両方の植物が生存しているのであろう。
昔、「砂漠は生きている」というディズニーの映画があった。追われた猫が柱サボテンにかけ登るシーンが目に焼きついたものだ。
サボテンの刺は葉の変化したものだが、長い進化の過程の中で、外敵から身を守るための役割を果たすようになり、種の保存を図っているのであろう。
同時に乾燥に対抗して、細胞は貯水細胞という特別なものになり、年に何回かある降雨をのがさずに蓄えている。
同じようにたくましく生きぬいている砂漠の植物がある。
ベルベッチア・ミラビリス(Welwetschia mirabilis)だ。マツやスギの仲間が多い裸子植物群だが、形は被子植物のようで、世界でも珍奇な植物の一つ。昔、初めてこれを見た日本人は、その形の面白さに驚いて、〝奇想天外〟の和名を付けたほどだ。
ベルベッチアの栽培は世界的にもむずかしい。ところが、ドイツのフランクフルト大学の植物園の温室では成功、みごとに生育している。
私か初めて見たのは、同園のガルテンマイスターのグラスミュックさんの案内で対面したときで、今から18年前だ。そのときは葉の長さ1mにも満たなかったが、それでも日本には同形のものはなかったので見惚れた。
その後、12年ぶりに再訪し、やはりグラスミュックさんに案内されて見た同じ株は、みごとに3~4mに生長していた。茎は茶色、左右に伸びた葉は緑色で幅20cm。〝陸のコンブ〟といったところ。
原産のアフリカ・ナミブ砂漠に行ったことはないけれど、彷彿として荒野の砂漠が目に浮かんだ。
また、こういう生物を通して教育環境をつくっているドイツをとてもうらやましく感じた。そのための知恵、労力に骨折りを惜しまないドイツ人の国民性をも見た思いであった。
植えてある容器は日本でいう土管で、これは砂漠植物共通の、根が深いことによるものだ。最近オーストラリア、ニュージーランドなどの花木を町で見かけるようになった。やはり、乾燥地のものが多く、根が長いので、栽培するときは深い鉢に植えることが必要だ。
砂漠化を嘆いている反面、砂漠に生きている生物にも目を向けて、私達の生活の楽しみを倍加して欲しいというのが、私の願いである。
川上幸男 著
B6変型判 / 並製 / 301頁 / 定価1362円(本体1,238+税)/
ISBN4-900358-40-1
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