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第七章 植物生態の不思議

第九八話 塩と植物のはなし

塩を食べるギョリュウ、アツケシソウ

マングローブ植物の細胞組織のしくみは脅感的


庭木や草花、鉢植え植物などに塩水をかけると枯れてしまう。濃度の濃い塩水は、浸透圧で植物の細胞の水を吸い取るためといわれている。ところが、塩の環境に囲まれて生活する植物もいる。塩生植物といって、塩分の多い海浜、海岸、砂丘、内陸の塩地などで生育する高等植物のグループである。ドイツ語でザルツプランツェン。体内の細胞にナトリウムや塩素を含んでいて、塩水の吸収調節の構造をもっているのが特徴だ。

その代表にマングローブ、ニッパヤシ、ホソバノハマアカザ、アツケシソウ、ハマギク、ハママツナなどがある。マングローブの種類は世界全体で約19科40属あり、紅樹林とも呼び、熱帯に多い。私達になじみが深いのはメヒルギ、オヒルギ、マヤプシキなどで、沖縄でしばしば見られる。よくテレビや写真などでも見かけると思う。海浜の水辺にタコの足のような気根をいっぱい伸ばした海岸林で、海水がピチャピチャと寄せ、潮風がまともに当たる環境で生きている常緑樹である。体内に多量の塩を含んでいて、塩を出したり入れたりしている細胞組織のしくみは脅威的だが、まだよくは解明されていない。

落葉樹で、シルクロードに沿った岩塩地帯(中央アジア)に生えるギョリュウの仲間は、葉に塩素腺があり、人の汗腺のように、塩を分泌するという。

北海道釧路の厚岸で発見されたアツケシソウも注目されている。学名はサリコルニア・ヘルバセア。サリは塩、コルヌスは角の意で、生育地と形を示している。英名はグラスウォード。この茎枝を焼いた灰からソーダ灰をとり、ガラスを製造する。茎をなめると塩からい。秋の紅葉が鮮やかで独特の海浜風景を展開することでも有名。別名サンゴソウともいう。この草が、海水をかぶる砂地で生き抜くのは、発芽間もない子葉のころに、フェノール酸化酵素の働きで耐塩性を獲得するためと考えられている。しかもマングローブと違い、寒地植物でもあるという特質に目を向けたい。

ディズニーランドに熱帯ムードのジャングルがある。ここに、きわめて造形的な気根の姿をさらすマングローブを植えたいと思っても、低温のため冬越しは無理。では、塩の好きなアツケシソウの遺伝子を組み込んだとしたら……夢としても面白いだろう。

景観だけでなく、塩生植物の蒸散作用、塩分排出を活用して、海水の淡水化や砂漠緑化などにも夢を広げてはいかがであろう。

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