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第七章 植物生態の不思議

第九五話 適応のはなし

所変われど品同じ

千葉県で高さ1メートルのアキタブキが見事に生長


生物の生理、形態的な性質が、その環境のもとでの生存と繁殖に適合していることを適応という。英語でアダプテーション。順応と同訳である。

東北、北海道では大きくなるアキタブキが東京近辺では年々小さくなる。筆者がはじめてアキタブキに接したのは中学生のころ。北海道の北の原野でだった。高さ2m前後あり、葉の大きさも直径1mあった。雨が降ってくると傘代わりにもなる。どうして、北海道では大きくて、東京では高さ60cm前後に矮小化してしまうのか。

それが、冒頭に掲げた適応ということなのである。所変われば品変わるとよくいう。姿形が全く違うので、学者が種類の判別に困惑しだときの口ぐせの言葉でもある。

ところが、適応といっても自然の姿ばかり目にふれるわけではない。2、3年前、千葉県の新聞に、関宿町の石塚豊治さんの庭で高さ1m余の大きなアキタブキがみごとに生長したという記事があった。人工的栽培に丹精したたまものであるということで、技術を駆使して手塩にかければ、原産地にも負けないくらいの姿になるということである。

世界の巨大草本の1つ、南米産の水辺植物グンネラ(Gunnera=アリノトウグサ科)は、高さが2~3m、葉の直径1~2mになって群生するが、日本ではなかなか栽培が難しく、高さ50~60cmの矮小株しか存在しなかった。

ところが、大阪で開かれた花と緑の博覧会出展民間パビリオンのサントリー館で、巨大草の栽培に成功した16株が本邦初公開された。環境酷似の流水を根に与え、クールな環境を葉茎に与えることにより、みごとな株に育て上げたという。面白いことに、このグンネラは120年前に開催されたフランスの万国園芸品評会に出品されていたという記録がある。

千葉県関宿町のアキタブキもそうだが、自然環境の変化による適応を、人工の栽培技術が立派に克服したといってもよいであろう。グンネラといっても、知らない人が多いと思う。アキタブキを西洋化したものといおうか。鬼ブキの和名もあるくらいにアキタブキが一番連想しやすい。(» 第六九話 生長のはなし② 参照

花と緑に関心が高まりつつある今日、自然に任せてばかりいないで、人間の知恵と工夫をこらせば、栽培困難な植物でも原生地の姿に育て上げることができるというあかしである。

適応、順応を軸に園芸栽培技術のすばらしさを紹介してみた。

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