第九三話 寄生のはなし②
横取りされても共生しつづける
ネナシカズラは一生の大半を寄生先の植物のふところで生活します
人と自然との共生という言葉をよく耳にする。共に助け合って生きるということだが、自然界には一方的に利益を享受する場合もある。寄生がそれだ。
寄生はパラサイティズムといい、生物が栄養を他の生物体(寄主)の一部(植物では茎、根など)に依存して生活することをいう。
ヤドリギ(宿り木)は、種子が鳥などに運ばれて木の枝又などで発芽し、根が寄主の組織に入りこみ養分を横取りする。自身の葉も葉緑素があるから養分を作ることもできるので、半寄生植物ともいう。
冬の街はクリスマスの飾りつけでいっぱいになる。真珠のような丸い白い実のついたヤドリギが目につくはずだ。基本種はヨーロッパにあり、ミスルトウと呼ばれる。家庭の部屋の入り囗などに飾り、下を通る婦人にはキスが許される、という楽しい風習があるという。ヨーロッパのヤドリギはリンゴの木によく付くというが、わが国ではエノキの高木に多く付く。かつて、ドイツのビュルツブルグ大学の植物園を訪れた時のこと、園路沿いの落葉樹に続々と付いているのを見た。ちょうど目の高さなので、手に取るように観察できた。そして、意識的に展示効果を考えた演出にも驚いた。
寄生植物はヤドリギだけではない。この自然界には数えきれないほどの種類がある。
腐生も一種の寄生。動物や植物にとりつく病原細菌、食品や土の中にあるカビ類など、多種にわたる。人の回虫や蟯虫などは身近な寄生だ。高等植物にもたくさんある。例えば、山野草の鉢作りでよく見るナンバンギセルはススキの根に、ヤッコソウはシイノキの根に、ヤドリギはエノキやサクラなどの枝に、ヒノキバヤドリギはヒサカキやツバキなどの常緑樹の枝に付く。
面白い例としてはネナシカズラ。芽生えの最初は自身の根で生活するが、一生の大部分は他の植物の枝茎にとりつく。まさにネナシカズラだ。ドイツのフランクフルト大学植物園の温室の一角で、鉢物をおおいつくしていた糸状植物クスクータ・オドラータを見た。ネナシカズラの一種。ヤドリギと同じような展示にきめの細かい気配りが感じられた。
川上幸男 著
B6変型判 / 並製 / 301頁 / 定価1362円(本体1,238+税)/
ISBN4-900358-40-1
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