第六一話 つるのはなし①
つるのしくみ
造園では斜面や切り通し、防音壁にと大活躍
つるはバインVine、どんなに太くてもトランクTrunk(幹)とはいわない。木のつるを専門家は藤本と呼ぶが、俗にいう藤づるの方が分かりやすい。草のつるは単につるだ。つるの生長の形にはいろいろある。フジ、アサガオのようにつる茎そのものが他の物に長く絡みつくもの、ナツヅタのように吸盤で壁などに付着してはいあがるもの、アイビーのように茎に刷毛状のひげ根を付けて茂るもの、ブドウのようにシュート(苗条)である巻きひげが絡まりついて生長するもの、クレマチス(テッセン)のように葉柄がぐるぐる巻きになるものなどで、よく観察するとまだまだたくさんある。
つるが物に絡みつくのはなぜか?一口でいうと、つる茎の外側面との生長速度が違うこと。外の方が早いので内方に屈曲し、物のまわりを回転生長するためといわれている。重力に感じて茎の一側面だけが伸びる側地性のためで、つる特有のものという。
つるの巻き方には右巻き、左巻きがおる。例えばアサガオは左巻きか右巻きか?亡くなられた小麦の遺伝子で有名な木原均先生は欧米のある大学都市で、14人に同じ質問をしたら、左2人、右9人、わからない3人という結果がでたと著書で述べている。今、日本で同じ質問をしたらどうであろうか。
ちなみに座右の植物図鑑を見ると、たいていはアサガオは左巻きと書いてある。先生は若いころから右巻き説で、30年以上も前、私が疑問の手紙を差し上げたら理由をこまかく書いた丁重な返書をいただき啓発されたことがある。欧米の14人の結果は、物理、化学、工学など他の分野との共通の見方、使い方を主張する木原説の有力な足がかりとなったと思う。ところが、どうして、アサガオは右であり、フジ(ノダフジ)は左巻きなのか、同じフジでもヤマフジ(ノフジ)はなぜ右巻きなのか、食用になるヤマノイモは右巻きなのに、同属でも食用にならないトコロは左巻きなのかなど、無限の興味ある課題を提起したままだ。
つるの功罪にも話題は多い。山林や公園の木を害するつるはクズ、ヤブガラシが全国的に有名。昔からヤブカラシは樹木をおおい枯らすので貧乏カズラともいわれてきた。現代の貧乏カズラは秋の七草のクズ、やさしい花とは対照的であろう。つるの功の方を紹介しよう。壁面や柱などの立体緑化に有効利用されていることだ。例えば、高速道路の斜面切り通しや、防音壁にスイカズラ、フジ、アイビーを利用するなどは、目を見張るものがある。前にもいったように種類による生長の形や巻き方など研究工夫すれば、一層効果的な利用ができる。
ヨーロッパの童話『ジャックと豆の木』は、つるが地上から天まで延伸生長し、地上に宝物を届けるという夢とロマンのつる物語でもある。この際、つるを見つめ直して欲しいものだ。
川上幸男 著
B6変型判 / 並製 / 301頁 / 定価1362円(本体1,238+税)/
ISBN4-900358-40-1
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