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第三章 葉の不思議

第四二話 仏炎包のはなし

苞の美しい花

仏像の背に炎が燃えているその姿から仏炎苞
スパシフィラムはスパセ(仏炎苞)とフィロン(葉)に由来します


ミズバショウの白い花がまぶしいシーズンだ。長野県鬼無里村にミズバショウの群落がある。残雪のブナ林の中に8万株が自生し、素晴らしい景観だ。私が見たのは前の日に雪が降ったということで、美しい純白の花は縁が〝凍傷〟にかかったようで痛々しかった。花といったが、実は葉が変形した苞の一種。仏炎苞という。中にあるぶつぶつの棒状体が花序で、両方あわせて花と呼んでいる。

苞が美しいのはハナミズキ、ホウノキ、ブーゲンビレア、ポインセチアなど花木、鉢花に多いからなじみがあろう。仏炎苞の方は、観葉鉢物で広く出回っているスパシフィラムが有名。ギリシャ語のスパセ(仏炎苞)とフィロン(葉)の二語に由来する。仏像の光背の炎を連想し、仏炎苞の名を付けた先輩植物学者に拍手、というよりも畏敬の念をおぼえるのは私だけではあるまい。同時期に咲くザゼンソウも同じ仲間。仏炎苞の花を見ているとまさに仏教的なイメージだ。

仏炎苞をもつ野生の花はたくさんある。美しいのはもちろんミズバショウ。尾瀬沼をはじめ中部地方以北の高層湿原に多い。

アラスカへ足を延ばせば黄色いミズバショウの大群落を見ることができる。仏炎苞も大きく、黄色が鮮やかで目を見張る色合いだ。

武蔵野の雑木林などに生えるウラシマソウ(浦島草)は仏炎苞の外に糸状の付属体が長く伸び、浦島太郎の釣竿に見たてた命名である。北海道の南部、四国の方でも見られるテンナンショウ(天南星)の仲間だ。テンナンショウはサトイモ科で、温帯の森林に最もよく適応する陰地植物。赤い実がなり、マムシグサの名でよく知られている。オオマムシグサ、アオマムシグサ、カントウマムシグサなど種類は多い。仏炎苞の形や模様に個性があるところから、マニアもたくさんいる。四国や近畿に多いユキモチソウは花序の付属体の先がボール状にふくらみ、白が美しいので愛好している人が多い。

スマトラ島に自生するショクダイオオコンニャクは、世界の巨大花といわれ、濃紫色の仏炎苞が幅1m、高さ1.5m、花序の肉穂3.5m、球根の大きさは人頭大の2倍、開花するまで20年かかるという。ともあれ、湿原に行き、ミズバショウを見たら、〝仏炎苞〟という名をぜひ思い起こして欲しい。

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