第九話 花序のはなし
線香花火と猫のしっぽ
花に近付いてじっと見でください
花と枝とその配列、花序がおりなす造化の妙が楽しめます
茎に付く花の配列の状態、花の枝が花序である。一つひとつの花の大きさや形、色などが千差万別であるように、花の枝にもいろいろな姿や形がある。
ニンジンやミツバ、セリなどの花は、白い細かい花がちょうど線香花火のようにちらばって咲いている。散形花序といい、セリ科、散形科の名で呼ばれている。
本当に線香花火に似ている花がある。熱帯アフリカ産の球根植物で、その名も線香花火。血赤色の細かい花を百花以上も付けて、長い花糸が火花を散らす線香花火のようだ。典型的な散形花序である。ただし、セリ科でなく、ヒガンバナ科のマユハケオモト属。学名はハエマンサス・ムルチフロールスだ。
面白い形の花序に猫のしっぽのようなのがある。イネ科の雑草のエノコログサ、チカラシバなど。いずれも穂状花序。よくみると、花の小枝である花梗(かこう)がないグループと、花梗があるグループとがあり、前者が猫のしっぽ状だ。コムギのように数個の花が花軸のまわりについているのは複穂状花序という。春のネコヤナギやクリの花は特異な尾状花序という。
花の博覧会で展示されていたオーストラリア産のススキノキ(クサントロエア・プレイシー)は穂状花序で猫のシッポそっくりだった。カラフルな花壇の花がいっぱいある中で、造化の妙とはこのことかという感じだった。
室内園芸のサトイモ科のアンスリューム。モンステラ、フィロデンドロン、スパシフィラムなどごくおなじみの観葉植物である。いずれも花軸が多肉の花序で、穂状花序の一型の肉穂花序である。インテリアには緑の葉だけでなく、花序にも目を向けてほしい。興味が倍増するはずだ。
花序は、花の咲き方で二つのグループに分けられる。花の咲く順が花軸の下部または周囲から順に上方または中央に向かって咲くタイプの無限花序が一つのグループ。穂状花序のほかに総状花序のサクラ、アブラナ、ナンテン、キリなどや秋に咲く頭状花序のキクがそうだ。
もう一つは花軸の頂部または中央部から咲きはじめ、順に下方または周囲に向かって咲く有限花序。集散花序のアジサイ、アメリカナデシコなどだ。花軸の先にただ1個の花が咲くのは単頂花序で、ウメ、チューリップなど。
しかし、実際はこの花序のタイプを自然界の実物とすり合わせるのは大変だ。例えば、サルビアは、穂状、総状、円すい状などいろいろな花序を観察することができる。だから花序と一口にいっても、決めつけるのはなかなか難しいところがある。
川上幸男 著
B6変型判 / 並製 / 301頁 / 定価1362円(本体1,238+税)/
ISBN4-900358-40-1
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