第八二話 順化のはなし
所変われば品変る
植物は気候要因など自然条件に適応できる術を持っている
私達は極寒の北国での生活に順化することができますか?
〝所変われば品変わる〟ことが、植物にもしばしばある。例えばバラ。かつて、パリの公園で見た花壇のバラは、丈が低く横張りの株だった。聞いてみると、なんとツルバラだった。雨が少ないなど気候的な要因で、こうした形に変化したのだろう。
順化は馴化とも書き、気候順化ともいう。生物の集団が、環境要因、特に気候要因に適応し、遺伝的に変化することをいう。『国語辞典』(小学館)で、「順化」を見ると、「気候の違う土地に移された生物の体質が、次第にそこの気候風上にあうように変わること」とある。適応、順応などの言葉もあり、似た意味だ。
首都圏の大規模テーマパークに、開園当初から植えられている南アフリカ生まれのユリオプスデージーは、キク科の多年草だが、茎が木化して、低木状に大きくなっている。今が満開だ。南アフリカ産の花には、古くから日本の気候に順化して定着しているものが多いが、ユリオプスデージーはニューフェース。東京を中心に西の方の暖地では冬の花として、家庭でも楽しむ人が増えつつある。熱帯の人たちが、急に寒い北国での生活に順化することは大変だ。しかし、花の方は園芸化されるなどして、異なった気候帯の人たちの生活に潤いをもたらしているわけだ。
順化した花は意外に多い。コスモスやダリアも同じだ。いずれもメキシコ生まれのキク科。コスモスは明治20年ごろ(1885~1888)に日本へ渡来して以来、今では山間部の農村にまで美しい花がいきわたり、まるで神代からの日本土着の花のようだ。人々にやさしさややすらぎを提供していることにもっと感謝の目をむけようではないか。
初めは秋の代表花でアキザクラの愛称で親しまれたが、今では初夏、真夏の花としても脚光を浴び、当初のものをあえてアキザキコスモスとよんで区別するようになった。
ダリアもメキシコ高地生まれで、コスモスより45年ほど早い天保年間の渡来の花。明治末から昭和初期のダリアの流行は目を見はるものだったという。この際、誰にでも手軽にできて美しい花を手に入れることができる、外国生まれの順化の優等生を見なおしてはと思う。
川上幸男 著
B6変型判 / 並製 / 301頁 / 定価1362円(本体1,238+税)/
ISBN4-900358-40-1
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