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第三章 葉の不思議

第四五話 虫こぶのはなし

昆虫が産卵して寄生する

イスノキは葉にたくさんの虫こぶが付くことで有名
寄主の木は育った虫こぶに栄養まで与えます


虫こぶは、植物に昆虫が産卵寄生してできたこぶのことをいう。年配の人なら「虫癭」という難しい漢字で覚えているだろう。英名は「insect gall」。手元の『ニュークラウン英和辞典』(三省堂)をひくと、gall(ゴール)は「虫こぶ、ふし、ヤナギなどの葉にできるいぼ(昆虫が卵を産みつけた巣)」とある。「癭」の字は、嬰=みどり子=に「やまいだれ」がついた字だが、『学研漢和大字典』(学習研究社)によると、「こぶ。木の節をとりまいたこぶ」とある。

庭木の一つの常緑中高木にイスノキ(マンサク科)がある。葉はトチノキに似ているが、気味が悪くなるほどの虫こぶが葉に付いているのが特徴。潮風に耐え、やせ地でも育つ丈夫な木で、虫こぶが付いても樹勢が衰えることはない。

虫こぶに穴があるので、風が吹くとヒューヒューと鳴き、子供が笛にして遊ぶことから、音を模してヒョンノキの別名がある。台風シーズン向きの防風生け垣としても最適だ。イスノキの虫こぶはイスノキイチジクフシといい、寄生している昆虫はイスオオムネアブラムシやイスコムネアブラムシ。虫こぶは大きいもので長さが7cmにもなることがあるという。

『資源植物事典』(北隆館)によると、「5~11%のタンニンを含み、染料に用い、五倍子に似る」とある。五倍子というのは、秋の紅葉が美しい落葉中木のヌルデ(ウルシ科)の葉にできる虫こぶのこと。古くから染料に使われ、他に薬用として痔や婦人病などに重用された。タンニンもイスノキの五倍以上含まれ、インクなどの製造にも使われる。

虫こぶはイスノキのような丸いものとは限らない。外殻も滑らかなもの、でこぼこ状などいろいろ。昆虫はアブラムシが多いが、ダニ、ハチ類など多彩。寄生する植物はヌルデ、イスノキの他に、カシ類、バラ科、ヤナギ科など。虫こぶができる場所は葉が多いが、樹皮、芽、根、実などにもできる。

がんのようにこぶができて、幼虫に栄養まで与えているのに、わずかの例外を除いては、植物たちが正常な生活を遂行しているのは不思議なことだと思う。

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