第一七話 花の開閉のはなし
昼に月を見る花もある
サクラは夜でも起きていて、シクラメンは1カ月咲きっぱなし
花が開いたり閉じたりするのには、太陽の光と熱とが深くかかわり合っている。ところが開花時間は花によっていろいろ異なるから面白い。
春咲くサクラやチューリップは、夜が明けて太陽が昇り、気温が温かくなると花開く。チューリップは日中の光の最も強いときには平らになるほど開き、夜になると閉じて筒状になる。サクラも同じように夕方になると閉じるとされているが、夜桜というように夜でも完全に閉じたりはしない。
アサガオは早朝に開くというが、太陽が出てくる明け方より早いこともある。種類、季節、場所によって違うが、早いもので午前3時に咲くという。自然状態で暗くなってから約8時間後に律儀に咲くのがアサガオの習性のようだ。野山にごく普通にあるハコベは午前10時頃には閉じるが、日かげにあるハコベの花は午後になってもまだ咲いている。タンポポの花は日中でも曇りや雨の日には閉じるが、雨があがり陽光がさしてくるとぱっと開く。ヨーロッパ生まれの多年草でキク科のバラモンジンは、その紫の花を午前10時には開き、正午すぎには閉じてしまう。人によると、いやもっと早く明け方の4時頃から開くともいう。
筆者宅のプリムラ・ポリアンサやシクラメンは、咲いたり閉じたりというより、咲きっぱなしで10~30日と続き、閉じたときは終わりだ。ラン類も同じでシンビジュームなど同じ花が1ヵ月以上も開いたままである。
ツキミソウ(月見草)、ヨイマチグサ(宵待草)、いずれも夕方になり光がうすくなってから開くグループで、翌朝日がさしてくると閉じる。ところが、最近めっきり道ばたなどに増えてきたのがヒルザキツキミソウ(昼咲月見草)。白花が基本だが、桃色にちょっと色づいたのもある。日中に月を見るという名前からしても愛嬌のある花ではないか。また、人々が寝ようかと思うころ、夜9時前後に花開く多肉植物の月下美人は朝になると閉じてしまう。
インド生まれのアオギリ科の一年草、ゴジカ(午時花)は午時(日中の12時)に咲いて夕方までには閉じてしまうし、野生のスイレンであるヒツジグサは未の刻(今の午後2時)に花開き夕方6時には閉じるという習性がある。ところが、熱帯スイレンには夜に咲くものもある。種類は違うが、ユウガオ、ヒョウタン、カラスウリなども夕方開いて、翌日の朝閉じるグループである。花の命は短くてというが、さまざまな形の、開いて閉じての花の生態を紹介してみた。
川上幸男 著
B6変型判 / 並製 / 301頁 / 定価1362円(本体1,238+税)/
ISBN4-900358-40-1
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