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有用植物を伝え残す

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1998年(平成10年)11月3日 読売新聞「顔」

「失われゆく植物を未来に伝えるため、ぜひ力を」と植物園関係者らに請われ来日した。プラジル全土を踏査して集めた標本は、キクの新種など個人としては最大級の十五万点。標本のDNAで絶滅種を再生させ、日本にも根づかせたいというのが関係者の狙いだ。地道な植物分類学に、先端技術が光をあて、在野の学者も脚光を浴びることになった。

旧制中学時代に読んだブラジルの大著が、進む道を決めた。「想像もつかぬ植物群をこの目で確かめたい」。二十一歳で単身、渡伯。コーヒー園の開拓に従事しながらサンパウロ植物園に通った。「目前の大木がキクの一種だと聞き仰天したよ」。研究員に採用され、調査にアマソンやアンデスにまで足を延ばした。

世界三大瀑布(ばくふ)、イグアスの滝の本流瀑布はダム建設で消え、周辺で採集した植物標本は今、唯一のものに。それらの成果は一昨年、二千二百種を収めたプラジル産薬用植物事典に結実した。「オレンジの三十倍のピタミンを含む木の実もある。未知の有用植物を国境を超えて役立てなければ」。日本の環境庁の助成で栽培研究も始まった。

「地球の財産目録」という膨大な標本は、知人らの支援で現地に完成した標本館に収容され、安住の地を得た。「命ある限り目録を増やしたい」と語る老植物学者。プラジルに戻れば、昨年亡くした妻の手縫いのバッグを肩に、また山野を駆けめぐる。

社会部 満田 育子


[写真:ブラジル全土の植物目録作りに挑む 橋本 梧郎(はしもと ごろう)さん]

サンパウロ市博物研究会標本館館長。
サンパウロ州在住。静岡県出身。85歳。


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