1996年7月2日 JORNAL PAULISTA/パウリスタ新聞
サンパウロ博物研究会(越村建治会長)は六月三十日午後一時半から、建設中の標本館(イタケーラ区ジャメス・リベイロ・ライト六一八番)で同館の仮落成式を兼ねて館長の橋本梧郎著「ブラジル産薬用植物事典」の出版記念会を開いた。
この記念会には田中克之総領事、上杉光則JICAサンパウロ事務所々長、宮尾連サンパウロ人文科学研究所々長、網野弥太郎県連会長、野村丈吾前連邦下議らをはじめ、ポンペイアの西村農工高校の西村俊治理事長、薬草研究家の行方健作さんら多数が出席。まず初めに越村会長が、橋本さんの事典出版に対する祝辞と標本館について報告を行った。「創意十五年、執筆五年のライフワークとして私たちも橋本先生のご努力を見てきました。この植物事典は二千百八十頁、三キロ二百グラムの超大の事典であるが、量より何よりも全伯におよぶフィールドワークと日々の研究がこの本の中に表れている。今後この事典が役立つように願っています」と話す越村会長。標本館建設状況については「ようやく八割以上が出来上がり、これも皆さんのご支援の賜物です」と感謝の意を表した。報告の中で越村会長は、日伯修好百周年の記念事業の一環となった同標本館を百周年記念事業委員会の委員長として、また個人としても関心を持って協力してくれた故・橘富士雄氏に見てもらえなかったことが大変残念であると述べた。また、同標本館の完成は今年末になる予定であることを挙げた上で、今後どのように標本館を運営していくかをよく考え、博物研究会の組織の強化、一つの方向性を持って活動をしていくことなどが必要になると指摘した。同会長によれば、今後は薬草植物に的をしぼり、標本整理、データの収集、企業要請に対する協力、生の薬草を多数揃えることなどが当面の目標のようだ。
続いて来賓の一人であった田中総領事は「これまでの長年にわたる橋本先生のご努力、ご苦労を忘れてはならない。最近あなたの髪の毛は随分と薄くなったからこれを使ったらどうですかと言われ、それを訳の分からぬままに使用、自ら実験ているのですが、この事典を見れば一目瞭然、自分が何を使用しているのかが分かるのですね。先生には今後も頑張って頂きたい」と祝いの言葉を添えた。
最後に橋本さんは「すでに日本にいる時から執念に近い興味を植物に対し持ち一九三四年、二十一歳の時に渡伯。二年後には自分で植物のデータを集め、調査を始めました。イタイプオの発電所のために今は無きセッチケーダスの滝周辺で二十年間にわたって採取した薬草は永久に手に入らぬ貴重なものとなった」と自分史を踏まえつつ述べた。「ここ最近は毎年、動植物三千種が絶滅しているというが、こうした自然界のものを研究、理解して保護することが大切。私が集めた植物ではありますが、これらは全民のためのものでもあるのです。今後は標本整理を進め、後世に残る標本館にしていくのが私の願いです」と語った。
同記念会では、橋本さんから同事典に協力した人文研の田尻鉄也理事と薬草専門家の井上俊介さんに同事典が寄贈された。
[写真:あいさつする橋本梧郎氏]
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