写真/毛藤圀彦・坂嵜信之
文/毛藤圀彦公式にはグレートスプリングショウと呼ばれるこれは、その名前にふさわしく、世界最大の花の祭典であると同時に、春の訪れを告げる豪華にして華麗な花の序曲でもある。
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女性が笑みをたたえつつ設計パンフを配って歩く。まるで動く花(サンプルガーデン)
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カラーの花と葉の間に、モルセラ(カイガラサルビア)とキュウリが挿してある(※前ページ元データ不明)
…むような美しい品種を生みだしているが、その晴れがましい公開の初舞台が実は、このショウの呼び物の一つとなっているのてある。チェルシーの公開の前日、これらの新しい品種は厳正な審査のもとにそれぞれに名誉を与えられ公開される。そして一般の人々の眼にさらされ、その評価と話題を生みだしていくのてある。
●実用に徹するショウ●
チェルシーにもう一つ見落してはならない魅力がある。それは実用に徹した側面である。
平たく言えば、来訪者に、自分たちの庭に植えてみたいものをこのショウの中から発見してもらおうということてある。そのため数々の見本庭園や見事な配植例が最新の道具や設計図面と共に展示される。主催者である王立園芸協会は、このショウの最大の目的を、「園芸や花や木のファンの方々の庭や部屋を最高のものにすること」においている―とまで言い切っている。会場の各所に設けられた相談所はこの言葉を裏付けしている。いくつものブースではそれぞれの専門家を擁して情報サービスを行い、庭づくりの相談にのる。栽培の問題や繁殖や、病虫害、土壌などのアドバイスが無料で行われているのである。
●ひと息入れる●
あるイベントを見るとき、私たちはその背景に、創る側と見る側の結合というか、思想や伝統といったものを強く感じる時がある。それはその民族の作家や演出家の意志であり、心であるのかも知れないが、全体として、単なる技巧的構成力の強いイベントには感じえない新鮮な感動を呼びおこされ、心温まる。チェルシーへの私の感想はこのことにあった。
チェルシーには日本の万博などで使われるロボットや音響や映像は全くみあたらない。ただひたすら生きた植物のみを演出する。そして命ある植物で、これほどのものを見せてくれるのてある。一つ一つの展示植物には学名のついたラベルがつけられている。小さなことかも知れないが、このことは出展者側の植物研究や花についての来訪者の関心がいかに植物学的にも高度なものかを現わしている。創る側、見る側の植物の知識の深さには今さらながら驚いたのてある。
●幕をとじて●
もし、読者の誰かがチェルシーショウの見学を計画する時、合わせて、街や家々の美しい植えこみをてきるだけ見るのがいい。そして、たくさんある公園のいくつかを散歩してみるのがいい。そして是非とも、この会場から歩いて十分のチェルシー自然史植物園(世界の薬用植物ほか)、王立のキュウ植物園とチェルシーショウを主催する王立園芸協会所属のウィズレー植物園だけは訪ねてみることだ。イギリスという国が、植物園と公園と街角と一般家庭の花づくりの発展に、いかに力を入れているかのあらましが理解てきるだろう。こうした国民的基盤の上にチェルシーフラワーショウは毎年開かれているのてある。
[P3写真上]
岩組、水、滝、池の組合せ。どことなく日本調でもある。前にドデカテオン、プリムラ、ツツジ類、コクリョウ、後ろにエンコウソウ、ユキザサ等(サンブル・ガーデン)[P3写真左下]
『ハーメルンの笛吹き男』の物語トピアリー(庭木を装飾的刈込みで動物や鳥の形とする)に大人達も童心にかえる[P3写真右上]
斜面を活用した水車と流れのある庭。タケはここでは珍しい(サンブル・ガーデン)[P3写真右下]
フキのお化けのようなペルー産グンネラ・チリエンシスを中心に、奥にはアザレア、シャクナゲ、カエデ等(同上)
[P4写真上]
目にあざやかな群落展示。ラン科のタイリントキソウの8品種を区別して植え込んで見せる。銀メダル受賞作[P4写真左]
マロニエの樹の下でー休み。王立病院所属の楽隊が音のサービスをしてくれる[P4写真右]
東門。R.H.S.(王立園芸協会)の会員とそうでない人と、入口が左右に分かれる
[P5写真左上]
ギボウシの混植。同属異品種にこだわりつづけると、こうしたデザインが生まれるというわけ[P5写真右上]
野趣の草花も人気を呼ぶ。ナルコユリ、モミジバダイオウ、アスチルベ、ギボウシ、ミシマサイコなどの仲間[P5写真左下]
花飾りの構造物。手前の、サラセニア、パピルス、キクの取合せが面白い。他にガーベラ、グラジオラス、ストレリチア[P5写真右下]
ロック風の小さな庭園。コニファーやカルーナで草花を引きしめる。ここでも斑入り種を効果的に使っている
[P6写真左上]
フラワー・アレンジメント。色と形の組み合わせに個性があれば、あとは人目を引きつけられるかどうかだ[P6写真左中上]
これもフラワー・アレンジメント協会の出品。ユーフォルビア、スターチス、ツツジ、ライラック、ユリ等[P6写真左中下]
サトザクラ、シダレ性ネコヤナギ、ライラック、テマリカンボク、ケアノーティス、ノルウェーカエデ等[P6写真左下]
図鑑や園芸書を集めて売るブース。庭のデザインや設計に関する本が良く売れている[P6写真右上]
英国の採集家ラドローとシェリフがヒマラヤで発見した"青いケシ"ことメコノプシス・ベイレイー[P6写真右下]
タコノキ属のパンダナスを中心にクロトン、カラジウム、グロキシニアを配す。黄と赤と緑の配合が美しい
[P7写真左上]
右と同じ。アリウム、タイリントキソウ、チューリップ、アネモネ・ブランダ、オーニソガラム、フリティラリア、シラー[P7写真右上]
切花に見えるが実は植えこんである。鉢を見せないのが展示のコツ。チューリップ、ヒアシンス、スイセン、フリティラリア、イリス等[P7写真左上]
ガーデン・クラフトのいろいろ。壁面利用とか吊鉢などのデコレーションが盛んである[P7写真左下]
無加温のこうした洒落た温室に人気があって種々展示されている●チェルシーフラワーショウへのご案内
1. 名称 … チェルシーフラワーショウ Chelsea Flower Show 2. 公式名 … グレートスプリングショウ Great Spring Show 3. 主催 … 王立園芸協会(略称 R.H.S.=Royal Horticultural Society) 4. 会期 … 毎年5月第3火曜日から4日間 午前8時~午後8時(最終日は午後5時迄)ただし第一日目はプライべイトビュウといって、R.H.S.の会員のみに公開。一般客は水曜日からの3日間。公開前日の第3月曜日はエリザベス女王が招待される特別日。 5. 入場料 … 5ポンド(約1,500円)130頁に及ぶ出展カタログが1.1ポンド、約 400円で入場門の所で立ち売りされる。これは必携。 6. 場所 … ロンドン市チェルシー区ロイヤルホスピタル(王立病院)の敷地内。チェルシーとは小さな町の名前。 7. 会場内 … 王立病院の敷地はちょうど東京の日比谷公園位の規模をもつ。会場の中心は24人の鳶職人が約3週間をかけて仕上げるという巨大な天幕。全体の会場構成はおよそ以下のようになる。
① 巨大な天幕内会場―タテ350mヨコ400mに及ぶこの大天幕の中に大小合わせて126の展示ブースが設けられる。今年有望視される植物や新しい改良種を含め、ほとんどオールシーズンの世界の花や木でー杯になる。
② 見本庭会場―ロックガーデンやハーブガーデン、コニファー園など様々なタイプの庭が創られる。
③ 屋外施設会場―大小の温室、フレームをはじめ、屋外ファニチャーが豊富に美しくディスプレイされる。
④ 園芸、園芸道具会場―最新の機器や道具類がそろえられ同時に売られる。本屋も軒を連らね、世界の花に関するほとんどが手に入る。
⑤ フラワー・アレンジメント会場―園芸家や作家グループが自慢のディスプレイを披露する。
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