昭和63年1月6日 岩手日報
クスノキ、カシ、シイ、タブノキなど常緑広葉樹からなる照葉樹林は、四国、九州地方に分布しているが、縄文期には北は青森県まで広く日本を覆っていたといわれる。
昼なお暗い樹林内は魑魅魍魎(ちみもうりょう)の潜むところであり、すさぶる神々の支配する領域だった。古代人が過度に森林破壊したのは、農業生産の拡大策はあるにしても、おどろおどろした森林を白日の下にさらして恐れをなくそうという気持ちが作用していたろう。
奥羽山系のブナ原生林の伐採計画など、林相は変われども、現代も森林いじめは続いている。人類の原初的感情が受け継がれているみたいだが、森林は畏怖(いふ)、拒否すべき対象ではなく、人々にとって親和性を持った地帯だ。
森林浴で知られるフィトソチッドという揮発性の物質は人間の健康を増進させるといわれる。殺菌効果が多少あるから有益だろうが、健康に役立つかどうか医学的にはっきりしない。むしろストレス解消など心理効果が重視される。森林の多い農業国は森林の少ない工業国に比べ、肉親殺しが少ないという統計があるそうだ。
県緑化研究会と県緑化推進委員会が県内小、中高校に贈った樹木の十年後の生育率はわずか二五%だという。研究会の毛藤勤治会長は「生長する過程を見てほしかったのに」と残念がる。樹木、森林の持つ情操面への効果を考えるともっともな話である。
樹木の低い活着ぶりは直接的には学校の管理の悪にある。木いじりに多少の心得のある教師が、いや、用務員でもいればこんなことにならなかったろう。代わりを務めるとすれば父母、地域民だが、地域と学校との結びつきの弱まった今、それもかなわない。
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