昭和58年11月 岩手緑化研究会
―とくに、髙水敷における植物群落の造成―
Ⅰ.趣意
河川敷に樹木を植栽することは原則として禁止されている。それは洪水時において、河川敷の樹木が流出して橋脚に激突して破壊させ、あるいはひっかかって水をせきとめたりして橋梁の流失や堤防の決壊をひきおこすおそれがあるからである。
近年、緑化や環境保全、自然保護の思想が力を得てくるにつれて、河川敷にも樹木を植えようという声が段々と髙まっているが、これはやはり慎重に扱うべき問題であることには変りない。
さて、現在、盛岡市の河川敷を見るのに、さきに建設省は北上川、中津川に対し、とくに北上川については夕顔瀬橋から南大橋附近の間、また中津川においては水道橋附近から北上川の合流地までの区間の河川敷整備を実施し、この中で市街地と貫流する区間については、要所要所の牧草を全面に播種し、雑小灌木の侵入と昔からあった植物ならびに雑草の防除についてその目的を達した。
また、さらに進んで市民の要請に応えて、各所に公開空地を設け、各種の運動場として開放した。
このような状態のなかで、盛岡市は、昭和57年3月、水と緑に調和した街づくりを飛躍的に推進しようと、城址・中津川周辺地区都市景観形成基本計画を策定し、河川地域としては夕顔瀬橋から三川合流点及び東大橋から同じく三川合流点を主体として取り上げ、都市景観形成モデル事業として、おおむね5年から10年先を目標にたてて河川敷の景観形成についても推進することを決定した。
ところで、河川敷とくに髙水敷はもともと。
(1) 洪水の調整区域
(2) 川のながめの一部を構成地域
(3) 人びとの活動地域(漁獲・農耕など)と水流との接点となる地域
(4) 多くの動植物棲息する地域
(5) 人びとが川で遊ぶ場合の一部となる地域
というさまざまな機能を有している。市街地を流れる川では、髙水敷の役割も、自らそのうちのどれかに比重がかかり、また、必ずしも自然そのままの姿を保つことが最良とはいえないこともある。
よってわれわれは、このときにあたり、髙水敷に草花などの群落をつくるということを都市河川における髙水敷利用の一つの形態として、その実施につき提案するものである。
Ⅱ. 髙水敷における植物群落のありかた
髙水敷に草本植物の群落をつくるというのは、容易なことではないが、これが大規模に実現したときの美しさは、現在のような牧草や芝類の景観に比すべきもない。また、一方、草花の群落は芝生地の周緑または境界として利用されるとき、芝生地の単調な景観を補い、芝生地の美しさをいっそう生彩あるものにひきたてる。
1. 場所の選定
髙水敷の草本植物群落を実現するためには、まず場所の選定が最も重要である。すなわち
(1) どこから眺めるのか、例えば堤防や橋上からの俯?か、髙水敷の散策道上か、など。
(2) 大洪水は別として、毎年の洪水では流されない程度の髙さを有する場所
(3) 土壌が十分であるかどうか、不足または無いときは盛土を考える。
2. 望まれる植物の性質
髙水敷における草本類の群落は、その目的、すなわち①花か②穂または植物全体の姿か③グランドカバーかによって望まれる性質が自ら異るが、今、草花の群落について述べると、おおむねつぎの性質を見えていることが望まれ、一つの群落の植物株数は草種と場所によって異っても少なく5000~10000株と多いものになろう。
(1) ある程度の草丈を有し、初期の生育が早い。
(2) 花期が長く、多花性であってその色彩は遠くから見て目立つ。
(3) 花が終っても茎葉が枯れ細って見苦しくない。
(4) 原則として多年草である。
(5) 耐病・耐虫性が強力。
(6) 堤防上からの俯瞰美に優れている。
つぎに、ススキ、ガマ、アシなどは、都会生活者にとって、すでに目に触れ難いものになった。これらの植物は、すべて河川敷から追い出しを喰ったもので、その復権は自然愛護を基本とする景観造成に見逃しではならない事項である。
幸い、盛岡市都市景観造成モデル事業実施対象地内には十字形のコンクリートブロックを敷いて堤防の根固めを施している沈床箇所が点在している。その一箇所、上の橋の上流右岸200米の沈床には、文化橋附近で伏流水となったと推定される河水が湧出し、沈床のブロックの間を淀みなく静かに流れている。ここには極めて少ないが水辺植物の一つである芦類が?っていて、中津川としてはこよない「ホタル」の棲息地となっている。
だから、沈床の上流地点から髙水敷地内に溝を設けて導水をなし、沈床への流水系を造成するとともにコンクリートブロック敷設によってできている四角形の鉢に水辺植物を茂らせるときは単に「ホタル」にかざらず、メダカ、ミズスマシ、貝類などを棲息するにいたるだろう。
グラウンドカバーといえば、シバまたは矮性の牧草が頭に浮ぶ。ことほどに普遍化されている事実はいなめない。芝生はその背景に洋風の建築物があって映え、あるいは森や沼が背景にあるときに景観を増す。
したがって市街地内貫流の河川敷における髙水敷の緑化は芝生一辺倒ではどうかと思われる。それよりも芝生は小生物の棲息地としては不適地だとして自然保護の立場からクレームがつくおそれを内蔵している。といって河川敷における芝地の造成を全面的に否定するものではない。
ただ、ここで述べたいことは、場所によっては芝類と同様にグランドカバーつまり地被効果を求めることのできる植物として、つる性またはほふく性のものの利用があることを認識して欲しいということである。
Ⅲ. 髙水敷における植物群落地造成に適すると思われる植物
1. 多年性草花
(1) アカバナジョチュウギク (Chrysanthemum coccineum) きく科 9-16 (3.3㎡当たり植栽枚数)
(2)アラゲハンゴンソウ (Rudbekia serotina) きく科 9-16 (3.3㎡当たり植栽枚数)
(3)グロリオーサデージー (rudbekia hirta "Gloriosa") きく科 9 (3.3㎡当たり植栽枚数)
(4)ユウゼンギク (Aster novi-begii) きく科 4-9 (3.3㎡当たり植栽枚数)
(5)オオテンニンギク (Gaillardia aristata) きく科 16-20 (3.3㎡当たり植栽枚数)
(6)ハマギク (Chrysanthemum nipponicum) きく科 4-9 (3.3㎡当たり植栽枚数)
(7)シャスターデージー (Chrysanthemum maximum) きく科 9-16 (3.3㎡当たり植栽枚数)
(8)ヒメジオン (Aster fastigiatus) きく科 9 (3.3㎡当たり植栽枚数)
(9)ダンゴギク (Helenium autumnale) きく科 4-9 (3.3㎡当たり植栽枚数)
(10)シロタエギク (Senecio cinerarie) きく科 9-16 (3.3㎡当たり植栽枚数)
(11)オオキンケイギク (Coreopsis lanceolata) きく科 9-16 (3.3㎡当たり植栽枚数)
(12)クサキョウチクトウ (Phlox paniculata) はなしのぶ科 9-16 (3.3㎡当たり植栽枚数)
(13)ハナトラノオ (Physostegia virginiana) しそ科 16-20 (3.3㎡当たり植栽枚数)
(14)エゾミソハギ (Lythrum salicaria) みそはぎ科 9-16 (3.3㎡当たり植栽枚数)
(15)カワラナデシコ (Dianthus superbus var.longicalycinus なでしこ科 16-20 (3.3㎡当たり植栽枚数)
(16)セイヨウキンシバイ (Hypericum Hgkeida 'Hidecot') おとぎりそう科 4-9 (3.3㎡当たり植栽枚数)
(17)カンゾウ類 (Henerocalis hybrida) ゆり科 9-16 (3.3㎡当たり植栽枚数)
(18)シュウメイギク (Anemone hupeunsis var. japonica) きく科 9-16 (3.3㎡当たり植栽枚数)
2. 一年性または二年性草花
(1) フウチョウソウ (Cleome spinosa) ふうちょうそう科 9-16 (3.3㎡当たり植栽枚数)
(2) コスモス (Cosmos bipinnatus:Dazzle Pinkie, Cuimson, Pedianea et.) きく科 9 (3.3㎡当たり植栽枚数)
(3) ホウキギ (Kochia japonica) あかざ科 9-25 (3.3㎡当たり植栽枚数)
3. 一年性または多年性の低小な草花
(1) セイヨウワスレナグサ (Myosotes hybrida) むらさき科 16-25 (3.3㎡当たり植栽枚数)
(2) ニワナズナ (Alyssum maritiamum) あぶらな科 16-25 (3.3㎡当たり植栽枚数)
(3) ジャノヒゲ (Ophiopogon japonicus) ゆり科 80-100 (3.3㎡当たり植栽枚数)
(4) ヤブラン (Liriope platyphylla) ゆり科 49-64 (3.3㎡当たり植栽枚数)
4. つる性、ほふく性のグランドカバープラント
(1) キヅタ (Hedera hybrida) うこぎ科 16-25 (3.3㎡当たり植栽枚数)
(2) ヒヨドリジョウゴ (Solanum lyratum) なす科 9-16 (3.3㎡当たり植栽枚数)
(3) ヒルガオ (Calystegia japonica) ひるがお科 9-16 (3.3㎡当たり植栽枚数)
(4) ツルマサキ (Euonymus fortunei var. radicans) にしきぎ科 16-25 (3.3㎡当たり植栽枚数)
5. 水辺植物
(1) ガマ (Typha latifolia) がま科 2-4 (3.3㎡当たり植栽枚数)
(2) ヌマガヤ (Moliniopsis japonica) いね科 2-4 (3.3㎡当たり植栽枚数)
(3) アシ (Phragmites communis) いね科 2-4 (3.3㎡当たり植栽枚数)
(4) ダンチク (Arundo donax) いね科 2-4 (3.3㎡当たり植栽枚数)
(5) マコモ (Zizania latifolia) いね科 2-4 (3.3㎡当たり植栽枚数)
(6) トクサ (Equisetum hyemale var. hymele) とくさ科 16-25 (3.3㎡当たり植栽枚数)
Ⅳ. 群落造成用として選んだ植物の性質と生態ごよみ
Ⅴ. 髙水敷における植物群落のメンテナンス
1. 前提として望まれる行政の一本化
徳島市は、都市緑化推進のため市街地内の国道及び県道にかかわらる管理について、街路樹の補植・剪定・病害虫の防除、清掃などに関する事業費を国、県から委託事業として引き受け、これに市費を上積みし、国・県の指導を得ながら都市景観の造成と保全に努め実効をあげている。
このように行政の一本化によるとき、相乗効果があがり効率的に事業が促進される事実は見逃してならない。
こんご各都市に普及されることが望まれる。
よって、盛岡市が今回打ち出した都市景観形成モデル事業推進に際し、この問題を国側に提起し行政の一本化について話を進めることを、本事業の前提として認識もらいたいものである。
2. メンテナンスの推進組織とその活動
まず第1に今回のモデル事業にかかわる関係町内会に対し髙水敷植物群落のメンテナンスにつき深い関心を示すよう呼びかけ認識を深めるよう働きかけする。町内会の機能が発揮されるにいたれば、地区内の青年会、婦人会。店主会及び老人クラブなどが、めざましくボランテア活動が促進されるであろう。あるいはこれらの活動体を総合した「北上川・中津川周辺地区景観を守る会」が誕生することにでもなれば、その活動はいっそう活動活発化し、市のあらゆる都市景観推進に関する既設の団体はもちろんのこと、観光関係諸団体も当然のこととして一枚はまてくることになろう。また教育関係においても学校生徒の情操教育の一環として、①よい景観をつくる②よい景観をそだてる③よい景観をまもることを教育のカリキュラムに組み入れし、生きた教育の場として、奉仕活動を通じてメンテナンスの主力になるに違いない。
かくて、盛岡市の城址、中津川周辺地区景観形成モデル事業は名実ともに完璧で、全く非の打ちどころのなをおさめることになろう。
3. 景観メンテナンスコンテストと各種の景観に関するコンクールなど
髙水敷の植物群落のメンテナンス関するコンテストの開催は、活動団体が競って励むきっかけとなるだろうし、一般市民あるいは学校生徒を応募対象とする撮影会は是非聞きたい。そのほか、絵画、写真、木版、作文、詩、短歌、俳句などのコンクールなども考えてよい催物だと思う。
4. 市民だんらんの場
万余の花が咲き乱れる植物群落を背景として、あるいは花に埋もれて、予め処々に設備された芝生の小空地は、ここを訪れる市民の憩いの場所であり、家族や友達たちがだんらんを楽んだり、友好を深めたる所として利用されるに違いない。
さらに、石組みのかまどを場所をきめてあつらえ、市民が車座になって小宴を張るなどで思いをめぐらすのは行過ぎというものだろうか。
われわれは郷土愛をこめ、盛岡市の河川に恵まれた天恵をいっそう美しく飾り立て、広く市民に親しまれる河川敷に近い将来、その実現を期待し、あえて提案するものである。
城址・中津川周辺地区都市景観形成に関するマスタープランにもとずいて発足した都市景観形成モデル事業の成功を願ってやまない。
(補記)
種苗の確保について
種苗の確保は①業者の供給品による。②緑化関係団体に委託する。③市内の植物関係組織団体会員、または町内会婦人部、青年部あるいは老人クラブ員などの活動に期待するなどの方法により計画的に促進されることが望まれる。とくに③によって確保の期待が可能なものとしてはハマギク、シャスターデージー、ダンゴキク、ハナトラノオ、カンゾー、フウチョウソウ、コスモス、ホウキギ、ニワナズナ、ジャノヒゲ、ヤブラン、キヅタ、トクサなどがあげられる。
植物名 | 年性 | 花の色 | 草丈 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 摘要 | ||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1年 | 多年 | |||||||||||||||||
1 | アカバナジョチュウギク | ○ | 赤 | 0.5-0.7 | 業者に供給依頼 | |||||||||||||
2 | アラゲハンゴンソウ | ○ | 黄 | 0.8 | 湯沢に群落地あり、多量に採取ずみ | |||||||||||||
3 | グロリオーサデージー | ○ | 黄・褐黄 | 0.8 | 多量に採取ずみ | |||||||||||||
4 | ユウゼンギク | ○ | 紫 | 1.2 | 市内より集めることが可能 | |||||||||||||
5 | オオテンニンギク | ○ | 黄・芯褐色 | 0.5 | 種子確保ずみ | |||||||||||||
6 | ハマギク | ○ | 白 | 0.5-0.7 | 市内より集めることが可能 | |||||||||||||
7 | シャスタースデージー | ○ | 白 | 0.7 | 市内より集めることが可能 | |||||||||||||
8 | ヒメシオン | ○ | 青紫 | 0.5 | 南昌山麓に群落あり | |||||||||||||
9 | ダンゴギク | ○ | 黄・橙 | 1.5-2.0 | 市内より恵集可能 | |||||||||||||
10 | シロタエギク | ○ | 黄(葉銀色) | 0.6 | (常緑) | 業者へ発注 | ||||||||||||
11 | オオキンケイギク | ○ | 黄 | 0.8 | 業者へ発注 | |||||||||||||
12 | クサキョウチクトウ | ○ | 赤・ピンク・白 | 0.7-1.0 | 多量の株(約20000株)が確保されている | |||||||||||||
13 | ハナトラノオ | ○ | 白・ピンク | 0.8-1.0 | 市内町内会に呼びかけて多量に集られる | |||||||||||||
14 | エゾミソハギ | ○ | 赤紫 | 0.1 | 業者に発注 | |||||||||||||
15 | カワラナデシコ | ○ | ピンク | 0.5 | 業者に発注 | |||||||||||||
16 | セイヨウキンシバイ | ○ | 黄 | 0.8 | 業者に発注 | |||||||||||||
17 | ヘメロカリス(カンゾウ) | ○ | 黄・橙色 | 0.7 | 業者に発注 | |||||||||||||
18 | シュウメイギク(キフネ) | ○ | 白・ピンク | 0.8-1.3 | 市内有志に呼びかけて集めることが可能 | |||||||||||||
19 | フウチョウソウ | ○ | 白・黄・赤 | 1.0 | 種子は町内会などの団体で募集可能 | |||||||||||||
20 | コスモス | ○ | 赤・白・ピンク | 1.5 | 種子は町内会などの団体で募集可能 | |||||||||||||
21 | ホウキギ | ○ | (葉の緑と紅葉) | 0.8 | (緑葉) | (紅葉 ) | 種子は町内会などの団体で募集可能 | |||||||||||
22 | セイヨウワスレナグサ | ○ | 青 | 0.4 | 業者供給(種子) | |||||||||||||
23 | ニワナズナ | ○ | 白・紫・淡赤 | 0.3 | 種子を市内団体によって集められる。 | |||||||||||||
24 | ジャノヒゲ | ○ | (緑)実はルリ色 | 0.1 | (常緑) | (花) | (常緑) | 一部業者より | ||||||||||
25 | ヤブラン | ○ | 紫(実は黒) | 0.3 | (常緑) | (常緑) | 一部業者より | |||||||||||
26 | キヅタ | ○ | (濃緑) | 0.1 | (常緑) | 年次計画末期までに確保可能 | ||||||||||||
27 | ヒヨドリジョウゴ | ○ | 実は真紅 | 0.2 | (実) | (緑葉) | (常緑) | 確保可能 | ||||||||||
28 | .ヒルガオ | ○ | 淡いピンク | 0.1 | 業者より供給をうける | |||||||||||||
29 | ツルマサキ | ○ | (濃緑) | 0.1 | 業者より供給をうける | |||||||||||||
30 | ガマ | ○ | (穂) | 1.5-2.5 | (穂) | 業者より供給をうける(向中野に小群落あり) | ||||||||||||
31 | ヌマガヤ | ○ | (穂) | 1.0-2.0 | (穂) | 業者より供給をうける | ||||||||||||
32 | アシ | ○ | (穂) | 1.5-2.0 | (穂) | 業者より供給をうける | ||||||||||||
33 | ダンチク | ○ | (穂) | 1.5-2.5 | (穂) | 業者より供給をうける | ||||||||||||
34 | マコモ | ○ | (穂) | 1.0-2.0 | (穂) | 業者より供給をうける | ||||||||||||
35 | トクサ | ○ | (濃緑) | 0.6 | 業者より供給をうける | |||||||||||||
36 | ススキ | ○ | (穂) | 1.3-1.6 | 業者より供給をうける |
〔採録・Aboc Works〕カテゴリリンク