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植物を愛することはよく知ることなり

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2003年3月 趣味の園芸◆ブックガイド拡大版◆

園芸愛好家必携の書籍紹介

八尋和子 [英国王立園芸協会日本支部]

近ごろの花店の店頭に並ぶ園芸植物の種類の豊富さには驚くばかりです。聞くところによると、市場に流通している主要な園芸・造園緑化植物の種類は2万以上とか。園芸雑誌にも多種多様な植物が紹介されて読者も情報通となり、単にバラ、パンジーであればよい時代ではなく、花色や姿、特性を調べて、‘アイスバーグ’や‘アイリッシュ・モリー’という品種名で求めてくる客が多くなったとの話も聞いています。より自分好みの植物を集めたくて、海外に種子の注文をする人も少なくありません。

植物の正しい名前表記が必要

そのように植物の個性を尊重するなら、まずは正確な名前を知ることが基本です。そして提供する側も正確な名前をつけて世に出してくれなければなりません。つまり植物の戸籍がきちんと整理され、統一された名前が浸透してこそ、植物とのつき合いはさらに深まり、普及も増大するでしょう。

しかし現実は、名前表記はばらばらです。鉢にラベルはついているものの、購買意欲を誘う耳当たりのよい販売名、誤称、略称、あるいは単に属名だけ、まして品種名のみの表示では、この植物は何者なのか、親は何か、原種か交雑種か、といった戸籍に関する情報は伝わってきません。

学名は植物の戸籍のようなもの

そこで、国際的にも通用する学名の併記が必要となってくるのです。学名は植物分類学に従い、各植物を種名で表記します。種名は属名と種小名を連ねた二名法で表され、次の表示となります。例えば、オカトラノオ属のリシマキア・ヌンムラリアは Lysimachia(属名) nummularia(種小名) とイタリック体で表します。つまり、属名が苗字、種小名が名前で、合わせて植物の姓名、と考えればよく理解できます。

さらに黄葉という特徴のある品種オーレアに対しては、上記の種名に‘Aurea(オーレア)’を加えた Lysimachia nummularia‘Aurea’(リシマキア・ヌンムラリア オーレア)という園芸品種名で表示します。 学名が併記されていれば、同じ親戚だとか、名前は似ていてもまったく別の属であるという情報が伝わります。これらの命名ルールは『国際植物命名規約』に基づいて決められたものなので万国共通、どこの国でも通用します。

新たな図鑑『日本花名鑑』の登場

以上のような日本園芸界の状況を背景に、2001年に創刊された『日本花名鑑』には、これまでにない画期的な出版意図がくみ取れます。つまり、前述の植物戸籍簿づくりに着手し、国際ルールに基づいた体系的な植物名称事典が一冊にまとめられたのです。市場流通している植物約6000種類を収録し、学名、和名、英名、さらに略称、誤称を含む流通名も索引から引くことができ、これまでの名称混乱のもとも確認することができます。主要なものは写真つき、耐寒性をはじめさまざまな植物特性をマークで表記。さらに市場での電子取引に将来役立つという日本花き取引コードも付記されるなど、コンパクトながら植物情報が満載です。

毎年、2000~3000種類もの新園芸品種が市場に登場するという変動の激しい現状に合わせて、創刊以来、毎年、編集し直された第2巻、第3巻が出版されています。これまで植物の呼称に、何を基準とすべきか手探りであった出版界においても、この『日本花名鑑』を参照することが多くなっているようですし、「浜名湖花博」という公式イベントの植栽植物名ラベルもこれに準拠したものになるそうです。 各人それぞれ使い慣れた名前もあり、違和感を感じるものもあるかもしれませんが、このような呼称の取り決めは一般化するためのルールです。ようやく園芸植物の名前が整理され統一された形で世に出たからには、修正を加えながらも、これを見守り育てていきたいものです。


日本花名鑑
安藤敏夫・小笠原 亮監修
発行元 日本花名鑑刊行会
発売元 アボック社


オカトラノオ属

同じオカトラノオ属でも、種や品種により特徴も大きく違い、植栽材料としての用い方も異なる。 Aは這(はい)性の Lysimachia nummularia(リシマキア・ヌンムラリア)、Bは立性・紫葉の L.ciliata "Firecracker'(属名を略記;リシマキア・キリアタ‘ファイアクラッカー’)、Cは L.punctata(リシマキア・プンクタタ)、Dはその斑入り葉品種 L.punctata‘Alexander’(リシマキア・プンクタタ‘アレクサンダー')


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