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わが家の動物記(1)

1991年2月4日 鎌倉朝日
1991年2月4日 鎌倉朝日

大きなそのかやぶきの農家を、付近の子供たちは幽霊屋敷と呼んでいた。人が住まなくなってかれこれ十年近くになるというから、相当に荒れはてていて、幽霊屋敷の名も無理からぬことと思われた。

この古い農家には八つ、部屋があった。入口には、馬が飼えるほどに広い土間があった。その奥は台所であって、その隣りが風呂場だった。風呂は五右衛門風呂で、その焚き口はまた一つの部屋になっていた。

戸口には、土壁の作業小屋があった。その天井には、茶色の大きな野良猫夫婦が棲みついていて、地上には埃りまみれになった古い農具が積んであった。私は縁あって、そっくりのこの家屋敷を借りることにした。家賃は月二万円だった。

農家は、大船よりの鎌倉街道から五百メートルばかり離れた小さな谷戸の南面口に建っていて、三方を山に囲まれていた。家の裏手は切り立った崖地で、その下の藪の中に古井戸があって、少しばかりの湧き水が流れていた。そのやぶには往時の家人が植えたと思われるシュウメイギクが野性化していて珍しかった。私たちの家族は、一九七五年の春、ここに移った。

引っ越したその日は猛烈な雨の日だった。平塚に住む坊主や逗子で油絵をやっている友人たちが、家の真ん中にある囲炉裏に薪をくべ、ずぶ濡れになった私たちを待っていてくれた。

谷戸に降った雨は一つの河になって家の前の道路を激しく流れた。鎌倉人になった初日は、こんな惨々たる天候であったが、私たちはそれなりに幸せであった。

ところで、これから紹介する小動物たちは、昔、この谷戸の住人たちなのだが、そんな中で最初に登場せねばならぬのは、わが家にとって最も関わりの深いクロ(写真)という名前の忠犬である。

クロは黒と少し茶と白とが交じっていたが、全体としては真っ黒い印象のとても大きなシェパードの雌犬だった。隣りの大家の飼い犬であったが、私たちの住んだその日からわが家の縁側に居ついた。食事に変えるほかの時間はほとんど私たちの前にいたから、来客の多くはよく当家の犬と思い違いをした。

しかし、クロの方は私の友人たちを見まごうことなく、すぐ親しげに尾をふった。が、侵入者や不審なやからには奮然として立ち向かった。ときに野犬どもが群れをなして大家のニワトリ小屋を襲ったが、クロは少しもひるまず応戦しこれを撃退した。

唯一の例外は郵便屋だった。いや正確にいえば郵便屋が乗るオートバイのエンジン音であった。クロは余程、この爆発音が嫌いだったとみえ、配達物を放り込んで逃げかえるオートバイのあとを吠えたてて追った。しかしそれも谷戸の入口までで、決して深追いすることはなかった。放し飼いの自由の身であったが、谷戸を守るという役割をクロなりに立派に果たしているのであった。

クロは毎年秋に出産した。我が家の縁の下にもぐり込んで一週間ほど出て来なくなる。そうすると大家がやって来て、生まれたばかりの子犬を一匹ずつ引っぱり出した。多い年で十二匹も数えたことがあった。大家は子犬たちを竹かごに入れて、街のペットショップに売りに行った。クロはこうして多くの子犬をつくったが、子育ては一度もしない可哀想な母犬でもあった。

ペットショップにはカブトムシも売りに出した。カブトムシの幼虫は、シイタケの朽ちた榾(ホタ)木の間に自然発生した。この巨大な芋虫は、長雨のつづいた熱い夏の朝にいっせいに羽化する。大家はそうした朝、親友の朝三といっしょに大きな鳥かごが真っ黒になるほどに捕まえて、昼下がりには街場に出かけていった。その日はきまって朝帰りだ。クロは谷戸の入口付近に座り込んで、ご帰還をじっと待つのであった。

こうしたクロの目をかいくぐって、それでもここの谷戸には数種類の住人が生息していた。まずその筆頭はムジナ君である。このムジナ君はなんとわが家のいちばん奥の部屋に棲んでいたのである。灯台もと暗し、みごとクロの盲点をついていたのである。

このムジ公と私がはち合わせに対面したのは、この農家へ二度目の下見に来た時であった。いちばん奥の部屋は北に面していたために、他に比べて朽ち傷みが一層ひどく、雨戸は外れて、障子の隙間や破れ目から落葉が吹き込んで堆積していた。

この落葉の中がムジ公の隠れ家であった。ムジ公は私と一瞬目を合わせたかと思うと一目散に飛び出した。目のぐりっと大きいボソボソ毛の素早い奴だった。

このムジ公には、その後二度再会した。一回目はクロに追いかけられている後姿、、二度目は谷戸の藪にある草を見に行った時である。この谷戸には、大小あわせて六つの石のほこらがある。ムジ公はその中の一つのほこらから、例のどんぐり目玉を現した。そして、そそくさとどこぞに消えていったのである。(つづく)(環境と植物の情報を扱う「アボック社」社長)



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