1984年3月23日 週刊朝日
今からほぼ百年前、アメリカの北西の“はずれ”で写真館を開いていたダリウス・キンゼイは、森と、森を相手に暮らす人々の写真にとりつかれた。樹齢も定かでない巨木に挑む木こりたち。きり出された木で組まれた足場の上に続く鉄道。木の株を利用して作られた小屋。なによりも、どの写真にも潜む森の“匂い”。
といって、タイトルから想像されるような自然写真、単なる風景写真ではない。これはむしろ膨大なルポルタージュ。百年前にすでに始まった自然破壊の克明なルポルタージュとさえいえるものだ。
そこにあるのは、十九世紀末の第一次経済恐慌を脱し、二十世紀の“建設”にひた走ったアメリカの都市を支えた最大の資材のひとつ“木材”の調達現場の生々しい“証拠写真”である。
本書に収められた数多くの写真をとった当のダリウス・キンゼイはそこまで意識しなかったかもしれない。とる本人の意識をこえてとられる現実が物語るものがあるという写真のひとつの側面のこれは見事な例だろう。長い間本国でロングセラーだというのもうなずける。
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