樹木の巨大さに、まず圧倒される。斧(おの)を手にした荒くれ男たちの存在がかすんでしまうほどだ。細密画のような鮮明な映像は、偉大な自然の姿とかフロンティア魂の発露といった単純な言葉では説明できない、森に漂う一種異様な霊気を伝えている。
アメリカ写真史の黎明(れいめい)期に登場したダリウス・キンゼイ。シアトルで写真館を営みながら森と木こりたちを追い続けた。彼の写真集「森へ」(D・ボーン、R・ペチェック著、田口孝吉訳)は、残された四千五百点に及ぶネガの中から厳選された作品を集めたもので、本国では一九七五年に刊行されて以来のロングセラーだ。
本書は家族の肖像から始まり、次第に森の中へ踏み込んでいくキンゼイの足跡をたどる。卓越した技術もさることながら、数十キロの資材をかついで森に挑んだエネルギーには、執念さえ感じられる。それほどまでに彼を森に引きつけたものは、一体、なんだったのだろう。
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