1984年2月8日 夕刊フジ
前世紀末から今世紀初めにかけ、米国西部を舞台に活躍した写真家、E・カーティスが、“滅びゆく民”インディアンを30年がかりで撮った写真集。原本の民族誌「北米インディアン」は20巻に及ぶぼう大なものだが、本書は原本の別冊ポートフォリオから代表作105点を選び文化圏ごとに配列。またインディアンの口承文学の詩と説話が収録され、芸術性とともに貴重な歴史資料となっている。
有名なアパッチ族のジェロニモのしわがきざまれた顔、勇名をはせたオガララ族のレッド・クラウドの白髪で盲目の姿をはじめ、風習、儀式、日常生活など、米国の西部開拓時代のインディアンのようすを伝えるとともに、“滅びゆく民”の魂を写し出している。
当時はまだ自動車はなく。写真技術も黎明期で、カーティスは馬の引くワゴンに重いガラス乾板を乗せ、西部各地を歩き回った。アリゾナでは洪水にあい、貴重な乾板数百枚がフイになったこともある。また、白人に心を開かないインディアンから4回も狙撃されたという。
しかし、カーティスの仕事が“民族の永遠の記念碑”を作ることだとわかると、部族から部族へとカーティスの名前が伝えられ、積極的に協力するようになった。時の大統領、セオドア・ルーズベルトは仕事の重要性を評価、第1巻に序文を寄せ、財閥J・P・モーガンも資金を援助するなど各界から業績を認められた。
スー族の聖者、ブラック・エルクは「伐られて、ほとんど殺された『聖なる花咲く樹』がまた生き返るまで、三代かかる」と予言したというが、本書はそのよみがえりの兆しともいえるだろう。
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