1983年11月15日 日本経済新聞
子供に樹木の肌ざわり
緑化運動 量から質
都市化の進展でイチジク、アンズ、アカシアなど、唱歌や教科書に登場する樹木を見たことのない子供が増えており、小学校の先生たちからも「子供に木の絵を描かせるとサクラやイチョウばかり」と嘆きの声が上がっている。このため緑化運動に取り組んできた民間団体が、児童の情操教育に役立ててもらおうと童謡や文学作品にしばしば登場する苗木百種類を東京、大阪の小学校に寄付することになった。「緑化運動も量から質の時代に入った」と関係者は指摘している。
この団体は財団法人「サンワみどり基金」(東京都千代田区大手町一ノ一ノ一、渡部忠雄理事長)。同基金は三和銀行が四十六年に設立、東京、名古屋、大阪などの小、中学校に木の名を書いた樹名プレートを寄贈する活動を続けてきた。ところが今年七月、東京都と大阪府の小学校約四百七十校を対象に、学校緑化の実情について調査したところ、「自治体から給付される木は種類が限られている。子供たちの生活感情を豊かにするため、学校にはもっといろいろな木を植えたい」との声が続出した。
小、中学校の校庭に植えられる木といえば、自治体の給付や卒業生からの寄贈が頼りで、本数は多くても木の種類に限りがある。
東京都江戸川区立本一色小学校の黒川慶昭教頭(52)は「校庭の樹木はイチョウやケヤキが一般的だが、国語や理科の教科書にはもっといろいろな木が出てくる。こうした木を植えて子供たちの教育に役立てたい」と語る。たとえば有名な小学唱歌「この道」にはアカシア、新美南吉作の童話「ごんぎつね」にはイチジクが出てくるし、俳句の季語には樹木が使われることが多いが、現状では実物を見られないため「子供たちもいまひとつイメージがわかないようだ」という。
また大阪府池田市立池田小学校の井川款恵教諭(31)は「学校で案外少ないのはモモやアンズの木。食べることのできる実がどんな木になっているのかわからない児童が多い」と話している。
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