1981年2月14日 朝日新聞
シルエットで大づかみ 第2ヒントは葉や葉柄*80%みごとに的中*
厳しい冬も終わりに近づき、梅見のたよりも聞かれるころになった。野山に出かけて、樹木のことがわかったら、楽しみも、自然への理解もずっと増す。その第一歩はまず名前を知ること。「名もない木などといわないで、名前を知ってもらいたい」と神奈川県立フラワーセンター大船植物園の脇坂誠さんらはアボック社の毛藤圀彦さんと協力して初心者でも樹型から検索する方法を考案した。財団法人サンワみどり基金が発行した「樹(き)の本」としてまとめてある。
脇坂さんたちは樹を見たとたんにわかる特徴を第一ヒントとして①針葉樹②幹(みき)立ち③株立ち④つる植物⑤単子葉植物の五つにグループ分けしてみた。①の針葉樹は葉の形が針状かうろこ状なので見ただけでわかるし、④のつる植物もすぐ区別出来る。⑤の単子葉植物はタケ・ササ、ヤシなどのグループではが並行脈で見分けやすい。
ユニークなのは②の幹立ちと③の株立ちの区分。一本の幹から枝が出て樹冠をつくる高木が②に当たり、地ぎわから同じような強さの枝条が何本も立って樹冠を作るものを株立ちとした。ツツジやアジサイのようなものが株立ちグループに分類される。(図右)。
第二ヒントとしては、歯の形や葉柄への付き方で区分する方式。幹立ちで三出複葉ならメグスリノキだし、株立ちで手のひら形ならヤツデやフヨウ(図左下)。
もう一つの特徴は樹型がひと目で見分けられるように全体像をシルエットにしたこと。落葉樹は葉のない冬枯れ立ちの姿で描いてあり、幹や枝の様子を見やすくしてある。編集者の毛藤さんは「ヨーロッパやアメリカの初心者用の手引きには樹の全体像が必ずあるが、日本の図鑑類では木の部分を精密にとらえる傾向が強く、初心者には引きにくい」という。「樹の本」では最初のヒントとして遠目で大づかみだけれど見当がつけられるようにしたという。
「樹の本」には針葉樹三十五、幹立ちの樹木百五十四、株立ちの樹木百三十六、つる植物十五、単子葉植物十三、計三百五十三種がシルエット、カラー写真、学名、分布図、検索する時の手がかりになる葉の特徴などをつけてまとめられている。脇坂さんは「小学校の校庭や近くの山野でよく見られる樹木という基準で選びました」という。
「植物学というよりは園芸的なアプローチで樹木に親しんでもらうのにどうしたらいいか考えた方法です」と脇坂さんはいい、「次のステップとして本格的な植物図鑑や樹木図鑑を活用できるようになってもらえればと願っています」と毛藤さん。著者の一人で植物探検家の泉宏昌さんが検索の経験のないグループを指導してみたところ、八十%の的中率で樹名を当てられるようになったという。
「樹の本」は初版を十四万部印刷、小学校を中心に無料配布した。三月頃を目標にサンワみどり基金では増刷準備中だが、入手希望者は一冊二百四十円の郵送料を同封して東京都千代田区大手町一ノ一ノ一-三和銀行東京ビル内、サンワみどり基金(電話〇三-二一四-五五五三)へ。(※)
(※注:現在のお問合せ先=公益財団法人 三菱UFJ環境財団へ。送料はHPでご確認ください。)