多種多様な細かい区分、果実の料理法まで
(北海道環境財団・理事長、元・北大植物園長 辻井達一氏)まず、一目、見た時には、おそろしく大きな本だと思った。大判で厚みはおよそ6センチメートル程と見えたから、これを読むのはえらいことだ、というのが誰しも持つ感じであろう。しかし、事典だからそれはもっともでもある。
そこで思い切って開けてみるとはっきり言って、これが断然、面白いのだ。そこで、つい釣られて次々と項目を選んでは読んでしまうではないか。
辞典、事典と名乗る類は、そもそも、字を探し、事を確かめるたまに存在するものだから、その項を読んでしまえば御用は終りで、また本棚に戻される。次は何時、聞かれることやら。
この樹木事典はどうやら、それを越えている。先に次々と開けては読んでしまう、と言ったが、全体は、“名前でさがす”《索引編》、“適木を選ぶ”《選択編》、“1612種を調べる”《事典編》、それに、“理解を深める”《解説編》という4編からなっていて、後半を占める事典編がもっともヴォリュームが大きい。
収録総種類数は2432種類、索引総件数は7740件だから、この種の事典としてはおそらく日本最大級ではないかと思われる。その中では、やはり数多い索引が目立つし、役に立つ。
最初の部分で「奄美大島以南の亜熱帯樹種は扱っていない」と断ってある。まあ、南西諸島でことさらにお庭を、と言う人もそう多くはないだろう。これに対して「高地に自生する樹木で、寒冷地のさまざまな環境を豊かにすると判断した樹種は収録した」とあって、これも実際的な判断あるいは必要性かと思われる。
そこで、さっき言ったどんなふうに面白いか、どんなふうに書いてあるかというのを少し紹介すると、たとえば選択編での第3部●目立つ特徴え選ぶ・木の実の項ではこんな具合だ。★野生鳥獣の餌として重要な実、という区分があって、それはマツボックリ型、ドングリ型、果実型などに分けてある。その次には★野生種で人間が食べることができる木の実、というのがあり、その小区分には、まず、●そのまま食べられる・・ガンコウランなど、から始まって、●そのまま食べてもいいしジャムにもできる・・・アキグミ、クロマメノキと並び、●食べにくいが加工すれば食用になる・・たとえばエゾニワトコ、から始まって、●粉にして水にさらし、あく抜きをしてから団子にする・・コナラ、トチノキとくるのだ。
どうです、面白いでしょう。樹木事典で果実の料理法が書いているのは今まで見たことが無かった。
第4部、環境で選ぶ、という部分も、同じ調子で、大項目・土は、乾燥、温暖地、寒冷地などの分類から、日陰の乾燥地、など細かい区分に及び、日影も非常に暗い、から適度の日陰、明るい日陰?というのがあるかどうか知らないが、まあ、そういう区分が立てられているし、乾燥した日陰、湿った日陰、と並ぶ。もうこうれ以上は書くのも大変だから止めよう。なにしろ、「やや強い潮風と砂地に耐えられる」種類は、などという項目まであるのだから。
海岸の部では、海岸環境の厳しさのレベルを判定する、として海側から内陸に掛けての樹木の並び加減を図で表し、樹木の大きさと風の影響を述べて、少しでも地物を利用して風除けにすると、結構、いろいろな樹木が使えることを示している。まことに親切だ。
後半のまさに半分は、看板どおり事典編になっていて、これは1612種を調べる、というタイトルになっていた。そして、これもなかなか読みやすくて、判りやすい説明で終始している。
「 まあ、大きさでびっくりしたり、重さを嫌がらないで(ただ、項目を引くだけでなくて)読んで御覧なさい、と言うのが私の書評だ。
最後に一つ。最初、開いた時に、なんと、これだけの事典で、しかも植物がテーマなのにカラー刷りでないのは、いまどき、どういうわけか、と思った。しかし、見ていくうちに、それはまったく気にならなくなった。白黒の写真や、挿画で十分なのであった。
著者・野田坂伸也氏は岩手県一戸町出身、㈱野田坂緑研究所を設立。岩手山がみえるところに野田坂ガーデンが設けられているそうで、読んでいるうちに是非、そのお庭が見たくなった。