「この本は読み物だ!」
株式会社愛植物設計事務所 会長 山本 紀久この野田坂本は、造園樹木の本であると同時に、立派な読み物でもある。
それは野田坂さんの故郷である岩手県における緑化樹木の生産や、庭作りの実践を通して培われた樹木に対する確かな目と、氏の持つ天性の感性と文章能力があいまって、専門家であっても気づかない樹々の扱いかたが浮かび上がってくる。
野田坂さんは1月12日の朝日新聞の科学欄でも氏の写真とともに紹介され、今や「時の人」となった。「解説には、自己の主観を多く織り込むことを心がけた」というところが野田坂さんらしい。特に氏の活動拠点である北国の樹木に対する解説は秀逸である。
たとえば寒冷地に適するクリは、一般の人々にとっては造園樹木としての認識が薄いが、氏の解説では、「……大木になると、黒褐色の樹皮が縦に割れ、堂々とした風格のある姿となり、威圧されるような雰囲気がただよう。広い公園や緑地にクリの木が何本かあれば、実を拾う楽しみもあるし、リスなどの小動物のえさにもなる。……」となる。
東日本大震災からもうすぐ1年を経過するが、被災地の緑化はこれからが本番である。その際には、一般にはあまり流通していない冷温帯地域在来の樹種やその扱いが重要に生るが、その意味でもこの本は極めてよいタイミングで出されたといえよう。
私と同年代の野田坂さんとは20歳代からのお付き合いであるが、特に樹木に対する造詣の深さを強く感じたのは、アボック社が出版した「樹木アートブック」の樹種の解説を分担して執筆したときである。主として私が関東以西の南方樹木を受け待ち、野田坂さんが北方の樹種ということになったが、野田坂さんはすべての樹木に対して自身の主観を持っており、まとめの段階ではずいぶん参考にさせてもらった。
今年の賀状によれば、今年からは岩手県にある自分の土地を北方の植物庭園として整備し始めるという。 そこから得た情報もまた広く発信してもらいたい。楽しみなことではある。