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環境緑化新聞 第688号 鼎談記事

木を選ぶ・野田坂造園樹木事典

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2011年10月1日 環境緑化新聞 第688号

鼎談「『木を選ぶ・野田坂造園樹木事典』を語る」
野村徹郎(日造協技術・調査部長)/枝吉茂種(CLA副会長)/二宮孝嗣(セイセイナーセリー代表・造園芸家)

希望鼎談

10月10に話題の『木を選ぶ・野田坂造園樹木事典』(以下『野田坂本』)が出版される。720頁というボリュームもさることながら、前例がない新たな視点による編集、内容も充実している、野田坂伸也という著者が、本書の魅力の最大のポイント。そこで、緊急に「造園施工」「設計」「園芸家」の立場から、野村氏、枝吉氏、二宮氏のお三方にお集まりいただき、本書について忌憚のないお話をいただいた。


造園界の宮澤賢治著す

野村(司会) 著者は1941年、岩手県生まれ。東京大学で造園を学び、小岩井農牧(株)を経て、45歳の時に(株)野田坂緑研究所を設立。緑化に関するコンサルタントから、庭園設計・工事、さらに自宅周辺に植物園を造っています。また、自らの思いや実践的な取り組を紹介する季刊の『花林舎ガーデニング便り』を発行し続けるなど、岩手に根差し、イーハトーブの世界を実践し、造園界の宮澤賢治とも言われる方ですね。

読み物としても面白い

枝吉 最初からびっくり。従来の公共造園では、造園樹木は約100種もあれば、大抵のことができました。が、『野田坂本』は1612種を、圧倒されます。造園樹木が限られてきたのは、病害虫を含めた管理と流通の問題からでしたが、ガーデニングの普及や生物様性をはじめ、社会の植物に関する意識が高まり、自然保護などを含めて造園領域が広がったこと。これからは1000種位は知らないと仕事にならないのかもしれません。
本書は、その実用書をして活躍するでしょうし、個人的には読み物としてとても面白かったです。

提案から管理まで

二宮 「高さや役割などから樹木を選ぶ事典」は今までなく、凄く有難いですね。お客さんとお話しする中で、「5月に咲く花が欲しい」など、パッと見当がつけられ、病害虫対策なども、実際の視点から書かれ、管理のフォローもでき、何から何まで判る使い易い本になっています。ただ、現在、流通不明の樹種も多そうですね。設計側は、いろいろなものを使いたいですが、生産側は売れないものは造れない悪循環がある。同じような庭なら誰でも作れますが、価値の高い庭を造るには、その設計に見合った樹種がなければできません。野田坂さんはこうした事情を予告しているように思いますね。
英国最大のナーセリーが発行した「ヒリアの木の本」が世界的な樹木情報のバイブルとなっていますが、日本でもやっと『野田坂本』で設計者と生産者が情報を共有するスタートラインにつけるような気がします。今後、設計者は「こういう樹種を使いたいから作ってよ」、生産者は「こんな樹種を作っているから使ってよ」と、本書をバイブルに需要と供給のより良い仕組みができることを期待しています。

パソコンとも連携

野村 「前書き」に、事典という科学書ながら、著者の主観を交えた記述となっているとあるように、従来の事典とまったく違い、樹木の紹介をはじめ、土壌や気候などの解説まで、野田坂さんの一貫した主観に基づく記述が、読み手には有難いです、また、科や属といった客観的な区分によって、掲載されていたのが今までの事典ですが、本書は、使い方など、主観的に並べられており、これも新しい点です。特に「適木をえらぶ」などは、切り口も斬新で、かつ実用的です。
さらに、本書は植物データベース「花ペディア」に連携し、カラー写真を携帯電話やパソコンで見ることができる「クロスメディア本」になっているのもユニークですね。

公共工事のあり方問う

野村 流通・管理の話は植栽設計の最大の課題です。日本では『公共用緑化樹木等品質寸法規格基準(案)』や『建設物価版』などがあり、積算面あらも規格外樹木は扱いにくく、生産者も商品化しにくいのが実情です。今回の『野田坂本』はこうした旧態依然の現状に一石を投じ、いろいろな意味での造園界の刺激となるのではないでしょうか。

枝吉 (社)日本樹木協会には新樹種部会もあり、公共用緑化樹木以外の生産やその普及に力を入れていますが、植栽設計者はそうした樹種を積極的に取り入れていません。『野田坂本』で紹介する樹種も加わって設計者が使いたい樹木情報の仕組みづくりやチェックリストができるといいと思っています。

二宮 造園設計は規格と価格偏重です。入札などで土木と同じようにやっていたら、絶対に技術を生かした仕事になりません。誰が植えても積算は一緒。石積みでも土木は石を置いていき、造園は石の裏表を読み組んでいきます。仕上がりはまったく違いますが、量しか見ていない積算では金額は同じ。質、仕上がりにつながる技術料が反映されない仕組みを改めないと、造園から技術がなくなりますよね。

枝吉 日本は設計施工分離型ですが、一部ではその一体化も必要でしょう。また、図面だけで設計意図を伝えるのは困難で、設計管理のような仕組みも必要です。『野田坂本』は、こうしたことも予告していますよね。

二宮 日本の造園デザインは社会的な地位が低過ぎ。まず。著作権がないですね。海外では著作権がある所が多いですよ。
また、海外では都市計画を行う際に、必ずランドスケーパーが入り、空間利用に応じて、住環境があれば、人が憩うみどりなどの線を引き、土木、建築となります。しかし、日本では、未だに車中心の道路の線を引き、そのまま造成されています。

震災復興に生かす

野村 『野田坂本』は都市計画本でもありますよね。現在、東日本大震災復興や各地の街づくりが、総合的に検討されていますが、どんな木をどう組み合わせるかまでは判りません。
また、本書の後半部分では、土壌や気候、日陰、海岸、大気汚染の話の中で、今までの通説で誤解を生んでいるような事象を解いていますね。例えば、海岸植栽は、潮の影響で育たないと言われがちですが、海岸からの距離などで異なり、潮ではなく常に吹いている風が植物のストレスになっているなど、こうした話は新鮮です。

二宮 「前半」は設計、「後半」は施工に特に役立ちます。樹種で言えば、カエデやサクラに力が入っていますね。カエデは世界中で利用され、日本が誇る植物ですが、生産されている樹種は限られ、山採りできるものが多くあります。今後は里山も宝の山と考えてもいいと思います。里山の保全にもなります。

枝吉 これから全国で本格化する公園のリニューアル計画にも里山の地の豊かな中低木が活用できそうです。また、大きくなり過ぎた木と周辺環境との調和など、「適木選び」などを本書に学ぶことができます。

造園樹木の市場拡大へ

二宮 そうそう。「適木をえらぶ」の香りや実のなる木などをまとめた該当樹種一覧は便利です。
公園や庭の樹木にしても、「こんな風に」とこちらから提案していくと、新しい樹木のマーケットはどんどん広がっていくでしょう。

地域植生の攪乱に注意

二宮 それと、多様な樹種利用には、植える場所や管理の状況などを踏まえた計画など植生の攪乱への注意も重要ですね。

業界に一石を投じる

野村 各地で森づくりが行われていますが、常緑主体のものも多く、薄暗い場所になってしまいます。適切な落葉樹も必要ですし、奥山でない限り、手入れは不可欠です。こうした管理への理解も本書から得られます。
根拠がないと、発言しにくい場面も多いですが、今回“出典”として利用できる事典ができたことを心強く思います。

二宮 生産者も頑張っています。本書はこうした人も喜びます。生産した樹木がどう評されているかを知ることができ、フィードバックで、生産に役立てられます。

野村 いろいろな感想をいただきましたが、『野田坂本』は、「怖い本」ですね。土木・建築の方やガーデンの方々が本書の知識を先取りすると、造園としてはその上をいかなければなりません。しかし、こうした知識が普及し、我々がもっと学ぶことで、発展につなげる、そうした格好の機会になればと思います。

枝吉 確かに「怖い本」でもありますが、私たちは一つの樹木だけでなく、樹木の組み合わせ、歴史や風土を踏まえた総体である景観をつくっています。ですから恐れるのではなく、どんどん活用していきたいと思います。

二宮 下から突かれれば、上がっていこうと思うので、本書は豊かなみどりの環境をつくるための底上げになると思います。

野村 『怖い本」と言いましたが、お二方から力強いお言葉をいただきました。今回、この『野田坂本』を通じて、生産や発注など、造園を取り巻く環境の改善が必要との話もあり、広く造園界に一石を投じる大作と言えます。これらを踏まえ、我々造園樹木に関わる者は先んじて学び、体制整備などを進め、ぜひとも本書を造園以外の世界にも広く利用していただき、裾野が広がることで造園が潤うことを期待しています。


プロフィール

枝吉茂種(えだよししげたね)氏
1943年世田谷生まれ。都立園芸高校から東京農業大学で造園を学ぶ。1966年(株)近代造園設計事務所に入り、その後幾つかの設計事務所を経て1978年(株)エディ造園設計事務所(現(株)グラック)を創立。高島平団地、多摩平団地等集合住宅の造園設計、八景島、山形野草園、青森三内円山公園等の公園緑地設計に携わる。2008年から(社)ランドスケープコンサルタンツ協会副会長・関東支部長。

二宮孝嗣(にのみやこうじ)氏
セイセイナーセリー代表、造園芸家。千葉大学園芸学部大学院修了。ドイツ、英国、オランダ、ベルギーで研鑽を積み、1982年長野県飯田でセイセイナーセリー設立。94年BALI(英国造園協会)ベストデザイン受賞、世界3大フラワーショウ(95年チェルシーフラワーショウ、08年メルボルンフラワーショウ、09年エラズリーフラワーショウ)にて、金賞受賞(すべて日本人初、世界初)。世界各国のフラワーショウ国際庭園審査員

野村徹郎(のむらてつろう)氏
(社)日本造園建設業協会技術・調査部長。建築デザインから野外空間にっ興味が移り、幾つかの造園施工会社、造園設計事務所を経て個人邸から大型プロジェクトや国内外の博覧会の設計、施工、監理に関わった経験を貴重な財産として活かしながら、2000年から日造協で「造園のものづくりとは?」をテーマに調査研究、情報発信を続けている。



鼎談記事 未掲載部分 (環境緑化新聞許可のもとに掲載)

二宮 先ほどカエデの話をしましたが、常緑・落葉を問わず、中低木に関心があり、アジア起源の植物は、世界的にとても関心が高いです。また、実が成るもの、花が咲くものは、鳥や虫を呼び、生きものの生息環境を広げることにもなるので、注目されています。
当然、チョウがいるということは、あまり好まれないイモムシもいるということになりますが、生きものが住まないような環境には、人も住みたくないと思いま す。ですから、人が住みたくなるガーデンや街づくりなど、明確な目的が原点にあって、そのためにどのような樹種を選べるかということだと思います。
また、日本で利用する場合は、酸性土壌で使えるかどうかも大きなポイントですが、ヨーロッパやアメリカ起源だと土が合わずに難しい場合もあります。
『野田坂本』は、日本起源の樹種が数多くあげられているので、その辺でも参考になるし、逆に近年急に利用されたコニファーなどについては、あまりページを割いておらず、この辺りにも野田坂さんのこだわりがあるのかなと感じました。

地域植生の攪乱に注意

二宮 遺伝子の話がありましたが、クヌギやコナラも東北と関東では異なるので、一緒にすると交雑します。日本では東京に九州のケヤキを持ってきたりしますが、海外の取り扱いはもっと厳しいです。

野村 復興松原の再生に、全国からマツの苗を送りたいという話も沢山ありますが、それも無理です。

枝吉 林業法の関係からもできませんね。

二宮 ニホンスイセンも絶対ダメ。これらを専門家がリスト化し、危険性があるものを除外しないと攪乱してしまいます。

枝吉 東京の深川でビオトープを行いましたが、地元の在来種を使用するということで、「植物選び」が大変でした。『野田坂本』はこうした時のチェックリストとしても重要ですね。

二宮 明治神宮の森は100年の計によって、人工的に作られた森ですが本当に素晴らしい。果たして震災復興計画は真摯に100年の計で考えられているのでしょうか。
サクラは震災復興の東北を象徴する木として『野田坂本』には教えられることが多いでしょう。

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