(高尾義彦氏)
苔清水、有明、御衣黄(ぎょいこう)、一葉、江戸、松月、朱雀(すざく)、白妙(しろたえ)、鬱金(うこん)…。B4の分厚い図譜をめくると、さまざまな桜の品種にめぐり会える。ソメイヨシノばかり見慣れた目には、新鮮な感動を覚える。
生涯を桜の研究にささげ、73歳で02年に亡くなった川崎さんが、生涯をかけて種の特徴を克明に描いた90枚の桜の絵図。花びらだけでなく、葉脈や種子など各部分を網羅した研究資料で、対象とした桜の採取地や特徴などのメモがつけられている。
妹の新島依子さんが保存していた現画の存在を、川崎さんに師事した植物画家、石川美枝子さんが大場秀章・東大名誉教授(植物分類学)に知らせ、ほぼ7年がかりで桜の季節に完成した。
川崎さんは植物学者、牧野富太郎氏に18歳から教えを受け、京都の桜寺・第四代佐野藤右衛門氏の指導も受けた。浦和(現さいたま)市の中学教諭を務めながら、日本の桜のルーツを求めてヒマラヤ・ネパールなどに出かけ、桜栽培品種の鑑定家としても活躍した。「日本の桜」などの著書があり、その研究の土台となった桜の作品群。後進にとっては貴重な資料であり、桜好きには宝物のように思える。