カーティス・ボタニカル・マガジン (Curtis's Botanical Magazine) Vol. 22, Part 2, P.139
2005年5月
評者:ピーター・バーンズ(Peter Barnes)
日本には約5,500種もの植物が自生しており、その植物相が豊かであることは誰もが認めている。とはいえ、日本の自然環境の多くが、開発の名のもとに存亡の危機的状況にあることもよく知られている。また、長きにわたって列島のすみずみにいたるまで人口の拡散が図られてきたことも、その危機に拍車をかけているといえるだろう。
ゆえに、多くの生育環境が悪化し、そこに見られる植物種が絶滅の危機に瀕していることは当然のことといえる。最近の情報によれば、日本自生植物の30%もの種が危機的状況にあるとみなされているようだ。こうした問題に対する関心の高まりに応えるように、国や地方の「レッドデータブック」が出版され、保護活動を支える基盤を提供してきている。
ここに紹介するみごとな出来栄えの書は、日本植物画倶楽部によるユニークな活動に端を発したものだ。全頁大の絶滅危惧種の植物画が複製され集められているが、これらはアマチュアもプロも含む75人の植物画家が取り組んで描いたものであり、ひとつの特筆に値する成果といってよい。植物の多くは自生地で描かれるかフィールドノートやスケッチをもとに描かれるかしたもので、植物学的な監修のもとになされたことが見てとれる。各図には日本語と英語で簡潔な解説が施されてあり、絶滅危惧の要因にも言及することが多い(多くの場合それは「園芸目的の過剰採取」と説明される)。巻末には画家たちの略歴などが載るが、英訳がないのは残念である。
本書の出版により、植物学者、自然保護活動に携わる人、園芸家、植物画家を含む広範な人々の関心が呼び起こされることは間違いなかろう。描画スタイルは多様で、ややもすれば統一感にかけると指摘されるかもしれない。おそらくすみずみまで実物に忠実であろうとする精密なものから、印象的な描きっぷりのものまであるのだが、評者はそれもまた本書の魅力の一部であると考える。
すぐれて豊かな植物相が取り返しのつかぬひどい状態になるかもしれない、という潜在的な危機に注意をひく方法として、本書が持つ視覚的な効果は、重要な基礎文献である「レッドデータブック」をもしのぐかもしれない。望むらくは、本書の出版を契機に開発や園芸関係者(本書のページを繰れば園芸的に栽培される多くのなじみ深い植物が認められるはずだ)の両者が、残されている自然環境の保護に敬意をもって取り組んでくれることだろう。最後になったが、本書によって植物画家であれ植物画収集家であれ、ボタニカルアートに興味をもつ人々が少なからず励まされるのではないだろうか。近年の本誌『カーティス・ボタニカル・マガジン』にも見られるように、日本はいまや「植物画という芸術」が盛んな国として注目を集めている。
※評者の同意および掲載誌編集者(マーティン・リクスさん)のご好意を得て森弦一(アボック社出版局)が訳出。掲載にあたり、原文冒頭に示されていた『日本の絶滅危惧植物図譜』(アボック社刊)の書誌的な記事は割愛した。
評者のバーンズさんは来日経験もあり、日本の植物に大変興味を抱いておられるRHSウィズリー植物園の元上席植物学者。
[Translated with permission of Mr. Peter Barnes, the author, and Mr. Martin Rix, the Editor of "Curtis's Botanical Magazine".]