1981年11月2日 京都新聞
本の装丁をしたり、雑誌にイラストを描き、また軽妙な文章もつづっている青年画家細谷正之が、出生から現在までの半生を、全編イラストで再現した絵日記自叙伝である。大正十年、父親が七歳の時の家族七人の記念写真風な絵から始まって、父母の結婚、昭和十八年八月二日未明の著者誕生―近衛にはバックに襲いかかるB29と投下される爆弾、銃砲を肩に行軍する兵隊が描かれている。小学から大学へと進学するにつれ、バックの絵もまた、戦争、敗戦、復興…と変わっていく。これは著者個人の人生絵巻であると共に、日本の歩んできた足あとを語る風俗絵巻でもある。
写真の絵には「一年一組担任水野先生」と「はじめにならんだ子は糠信さん」「このころは教室が不足していて、早番遅番なんてクラスがありました。」と説明の文字がある。一人の青年画家が生きてきた哀歓の半生には、同時代を生きてきた人びとの共感をよぶものがある。