1981年10月10日 みとう
昭和十八年生まれで、ことし三七歳を迎える青年画家。この人、絵をやり始めたのが二六歳になってからで、それまで集英社の出版部で有名作家の原稿とりなどしていた。
この膨大な数の絵は、退社後三日目に飛んだニューヨーク、パリ、そして彷徨のすえに行きついた、“不思議な国”シェルブール市郊外の絵ケールドヴィルという田舎町でほとんどが描かれている。
回想される幼少の日々、懶(ものう)い青春の時代、そしていつとはなしに折り重っていく今日と明日…。二年の歳月をかけ、リキまず、飾らないじっくりとした追憶は五百枚の私製本となった。
過去、これほどまでに透明な時間と空間の中で自分をみすえた画家はあったろうか。書棚の奥にしまいこまれ、睡っていたというこの絵日記が、全く脚色なしに、そのまま上梓されたのだという。型やぶりな本書が、読者、とくに若い人々にどのように評価され、浸透してゆくかが楽しみである。久々にみる好著である。