2001年1月 グリーン情報
都市緑化の方向シリーズ85
『日本花名鑑』を使ってみて!!
植物プランナー 坂嵜信之
来年、21世紀初めの1月に『日本花名鑑』の第1号が発刊されることになった(写真左ベージ上)。その内容は現在日本で流通している鑑賞・修景・緑化などを網羅したものである。したがって、扱っている分野は、1・2・ 多年草、球根、花木、コニファー、ヤシ・ソテツ類、ラン、サボテン・多肉植物、つる植物、水生植物、シダ・コケ類、観葉植物、ハーブ、果樹、野菜などあらゆる面にわたっている。
筆者も、編集協力者の一員としてこの本にかかわったので、その立場から、本書に盛り込まれた二三のトピックを紹介したい。
(1)IT時代の先端をいく データ(JFコード)を完備
まず初めに強く感じるのは、この本がIT時代の先端をいくものだということである。小冊ながら5000を超える種類を掲載し、その大部分をカラー写真でも昭介するということ、植物の一般流通名はもちろん、学名、開花期、園芸品種の性状や用途など約40項目にわたる特性データ、市場出回り時期、農林水産省・品種登録番号などをコンパクトにまとめてある。個々の植物には漏れなくJFコード(日本花き取引コード)が付いている。これは、コード出身だけでも情報交換ができるシステムの構築準備が整うことを意味する。
これからは、すべての種苗カタログをはじめ、あらゆる花店、出版物などでこのコードを一斉利用することになるに違いない。たとえば、園芸品種のさらに詳しい情報を得たい場合には、このコードを利用した各社のホームページにつなげばよいことになる。すなわち、本書を入手すると、背後にある膨大な情報をも容易に入手できることになる。
この名鑑は毎年一回更新するもので、時代の流れを反映し、正しい情報 を満載し、時代に先立って人々に最新の、そして最高の水準の植物情報を提供する媒体である。したがって、植物に関係するあらゆる方々から評価され利用されることを期待したい。
(2)植栽可能域マップについて
造園、都市緑化、花木・果物園芸などで取り扱う植物が、ある場所(地域)でうまく育つかどうか、植える前に情報を知ることは、基本的な問題である。今まで多くの経験を持った種類に関してはないが、新しい種類を取り入れようとするときは、前もってその植物に関する情報が必要となる。
光、水分、風、食害、塩害など、成長にかかわるさまざまな要素の中でも、温度条件は最も基本的で重要、かつ決定的なものの一つである。寒さに弱い種類は冬の低温・降霜・凍結などのために障害を受け、枝の枯れ下がり、枯死に至る。
筆者はかつて、約10年がかりで日本版の「植栽可能域地図(ハーディネスゾーン地図)」を創出したことがある。そのときに用いた方法論は、1960年に米国農務省から発表されたハーディネスゾーン(年最低気温の平均値に基づき、全土を10のゾーンに区分けする方法)に準拠すること、すなわち日本各地の気象台で測定された気温のデータを利用することであった。さらに、高度が約160m上がるごとに気温が1℃下がるという現象を考慮に入れ完成させたのが。「日本植栽可能域マップ(当時はは日本クライメートゾーンマップと称した)」である(『樹木アートブック 高木編』、1990年、アボック社発行)。
これの利点は以下の3点である。
- 新しい植物が育つ範囲を今までより正確に予想できる。
- 米国と同じ温度指数を使用するので、外国のデータを利用しやすい。
- 日本のデータを外国で使用することも容易になり、インターナショナルな利用を促進するのに役立つ。
その後、ヨーロッパでも同じ基準でハーディネスゾーン地図が作成され、ゾーン・ナンバーは今や世界的な指標となって普及段階に入った。
このたびの『日本花名鑑』では、これを一般の方にも分かりやすいものとするため、地図上に直接地名を載せたのである(写真左下)。この地名は、各地の測候所所在地(現在)で全国900地点を選んだので、ほぼ主要都市を網羅している。これでゾーン検索がしやすくなり、より便利なものになったのではなかろうか。
(3)期待種の推薦について
『日本花名鑑』で筆者が係わったもう一つは「期待種のマーキング」作業である。現在、主として市場で流通している園芸・造園植物を網羅し、整理・集大成する本だということで、この際それぞれの分野で活躍中の方々に、花産業の今後をある意味でさらに活性化するような種類の推薦と追加をお願いしたのである。推薦基準は次のようなことである。
- 今後の使用量増加への期待。例えば、現在は主に園芸分野で取り扱っている種類であるが、今後、造園緑化材料として使用が増えそうなことへの期待。
- 園芸・造園のプロとしての立場から、魅力的な種類なのでもっと使ってほしいという期待。まだテスト中のものでも、あるいは日本にまだ導入されていない種類でもよい。
こうした情報は花産業の将来に大いに参考になるはずである。
新しい世紀を迎えるにあたって、ますます「環境の時代」ということが強く意識されるようになった。大量生産・大量消費・自然破壊は反省され、環境保全と共に、植物と人間生活との結びつきがより重要視される時代となった。『日本花名鑑』では、自然・植物・緑・花の総合的な利用のためのデータを提供している。その活用は工夫しだいで多岐にわたる。一家に国語辞典が必ずあるように、アマチュアはもちんプロの要望にも応えられる便利で廉価な花事典が手元にあることは、一般の辞典・事典類では間に合わない情報を満載しているだけに大変心強いことである。また本書は、毎年一冊ずつ継続して刊行されることが大きな特徴である。刊行のたびに、その時を映す5000種類の花や緑の情報が得られ、冊数が増えるごとに膨大な植物情報が蓄積していくのも嬉しいことである。
(本書の問い合わせ先:電話0467-45-5119 アボック社まで。)
[写真]
(右ページ上)期待種マーキング作業風景
(右ページ下)監修者・編集協力者出席のもとで開かれた編集会議の様子(2000年10月28日)(左ページ上)『日本花名鑑❶』
(左ページ下)植栽可能域マップ(全図)
採録・Aboc Works:ユニークな自然史系専門書71冊の出版