「人間は小さかった」
写真/ダリウス・キンゼイ 文/中上健次 1890~1925 アメリカ北西部の森「異様な写真」中上健次氏
『森へ』というタイトルで最近翻訳紹介され話題になっているダリウス・キンゼイの写真群は、異様な衝撃に満ちている。
斬り倒された巨木。樹木があまりに大きいので、実質上、計器(メジャー)が狂ったように小人然としてしまった木こりたち。小人のような木こりたちには、木の切り株に寝そべっている者もあれば、計器(メジャー)の目盛りのように見える歯のノコギリを、気に入れたて立てかけたりして、そこに並んでいる者もいる。それだけで充分異様だが、見つめていると、画像の中から、抑圧された暴力のようなものが伝わってくる。いや、森の奥には屠殺場や処刑場があり、手早く屠殺や処刑を済ませて、木こりらが流出した血しぶきをぬぐい、取りすましたところへ踏み込んで撮ったような、一歩現場に遅れたが、しかし生々しく行為の跡がある、というものが、ありありと分かる。
キンゼイの写真を視ていると、小人のように撮られた木こりらが並んで写ったのが、切り倒されて地面に転がった材木だったり、胴体なしの切り株だったり、細かく切り刻まれ…
- (Image 2: 写真解説)
巨大な材木から4万枚の板屋根用柿(こけら)板がつくられる。キンゼイは、このような写真を1枚50セントで売っていた。1899年
- (Image 3: 写真解説)
平均直径約2.4メートルの15本の杉の樹が見られる。約20~30メートルの高さまで樹は写っている。左下の人間は、まさに計器(メジャー)の役割を果たしている。1913年- (Image 4: 写真解説)
峡谷をわたる木材鉄道のための橋の建設。30メートルほどの長さのある樅の木を橋脚に用いている。車や鉄道や歩きで森の中を撮影したキンゼイは、そこで注文をとり、1~2週間後に引き伸ばした写真を配りにきた- (Image 5右: 写真解説)
直径約3.6メートルの杉材にノコギリを入れる木挽き人。最初にノコギリで切り目を入れ、オノでくさび型にけずっていく- (Image 5左: 写真解説)
足場をつけ、オノを打ち込む。下にこぼれた木くずは荷馬車1台分にもなる。露出調整タイマーを使い、暗いところでは30分の露出で撮影することもあった- (Image 6: 写真解説)
1906年にシアトルに移り、風景写真を専門に撮影するようになる。11x14インチと20x24インチのカメラを使い、長い撮影旅行にでかけた。トラックの上にいるのは、ダリウス・ジュニア。1919年- (Image 7: 写真解説)
ダリウスが写真スタジオをはじめて開いたワシントン州シードロー・ウーリの町、この開拓町がつくられたのは1884年だった。1899年 (写真解説) ダリウス・キンゼイは1869年にミズーリ州で生まれた。20歳でワシントン州に移り、一家でホテルを経営した。この年、写真機に出会い、1940年、切り株に上がろうとして転倒し、引退するまで撮影を続ける。1945年死去
(c) D. Kinsey Collection, Whatcom Museum, Bellingham, Wash., U.S.A.- (Image 8: 写真解説)
切った樹木のつみだし作業。ダリウス・キンゼイが残した5000枚のネガの存在を知った2人の男が5年の歳月をかけ、1975年に2冊分の写真集として発売された。今年2月に日本のアボック社から『森へ』のタイトルで翻訳出版されている