1990年3月25日号 朝日新聞
一九八一年まで、盛岡市上田の岩手大学農学部構内には、樹齢六十余年のユリノキの並木があった。だが、この年の台風で構内でユリノキを含め何本もの木が倒れたことから、文部省は「倒木で事故の起きるおそれのある木は処分を」という通達を出し、ユリノキ並木も一本を除き、切られてしまった。
ユリノキとは、草花のユリではない。北米原産の巨木をいう。日本では明治初め渡来、新宿御苑に植えられたのが始まりとされる。この本は、ユリノキの形態、日本における渡来のいきさつ、世界各地のユリノキ事情、植栽方法など、木をめぐるありとあらゆる点について書いている。
岩手緑化研究会長毛藤勤治氏を中心に、森林生体学、植物化石、薬用植物学の専門家ら五人の共著。毛藤氏は、元県庁の役人で、牧野造りのために自然林を伐採する仕事に携わり多数の木を切り倒した、という。毛藤さんは「なんとかこれを償わなければ」と、ユリノキの育苗実験に取り組み、木の苗を愛好家に配った。つまり、自然への償いがユリノキに取り組むきっかけになり、この本が生まれた。
(アボック社出版局)