1984年3月19日 日本読書新聞
とにかく、その巨大さに驚かされる。膨張宇宙を想像するよりも、直径五メートル、樹高九〇メートルの巨木とそれを見上げる人間たちを、こうあからさまに見せつけられると、まずは呆気にとられてしまうだろう。
写真家ダリウス・キンゼイは一八六九年ミズリー州生まれ。南北戦争の直後であり、ひき続くゴールドラッシュの渦中である――そういう時代を想像願いたい。
活躍の中心となるワシントン州に移住したのが八九年、翌年から写真撮影をはじめる。
写真は、初期の記念写真風のものから自然―樹そのものへの執着という流れ、そしておそらくは人間の力業から機械の導入へと向う時代を背景に、それへの無邪気な憧れと自然の巨大さが何の矛盾もなしに同居するという幸福な作品となっている。
造本も内容と敗けず劣らずガッチリとしたもの。中上健次・吉増剛造・四方田大彦の座談を含めた付録つき。
(D・ボーン&R・ペチェック著 田口孝吉訳・アボック社出版局)
写真=同書より 地上六メートルのところで伐り倒される杉の木(一九〇五年ワシントン州)