この本は、日本語で書かれた我が国初の本格的なブラジル植物図譜である。ブラジルにはマルチウスやサンチレール、ペッコルトやピオ・コレアなどによる重要文献がある。しかしこれは伯仏独語で記載されている上、古い時代の貴重本で、今では入手さえも困難である。日本におけるブラジル産植物研究は至難な道であった。
ブラジルに帰化された橋本先生は、分類と博物学をご専門とし、こうした先駆的文献を丹念に整理、その基本情報を本書にこめられた。たとえば、収載2,168種には、シノニムと原記載情報を記録され、また、分布図も一つ一つ自作された。有用成分や用途情報に至っては、世界の研究発表をコンピュータ検索によって網羅するという徹底ぶりである。さらに、60年に及ぶフィールドワークと膨大な標本にもとづいた民俗植物学的記述が随所にみられ有益である。この本は、日本におけるブラジル産資源植物研究を前進させる歴史的な出版となっている。
国立衛生試験所生薬部長 佐竹元吉