序文より
私は過去に三度日本を訪れているが、日本の植物に関する著者の知識に感銘を受けてきた。絶滅の危機に瀕している貴重な日本の伝統園芸植物を救い生体保存するために力を尽くしてきていることは、国際的な園芸関係者の間ではつとに有名である。(中略)最も重要な仕事だと思うのは、中国の、とりわけ四川省の植物にかかわる持続的な研究である。
本書に盛られた諸情報や掲げられた美しい写真の数々は、28年に及ぶ中国における探査行で発見し研究した膨大な数の植物のごく一部にすぎない。その間、著者の踏査距離は30-35万キロに及び、東は浙江省、西は四川省からチベット自治区東部、南は雲南省から広西壮族自治区、北は山西省にいたり、計16の省にわたっている。
その探査行の結果、とりわけイカリソウ属、他の属ではシュウカイドウ属、ジンチョウゲ属、ジャノヒゲ属、シャリントウ属、サクラソウ属、シマハラン属、チゴユリ属、ハラン属、そして近年命名されたヘテロポリゴナトゥム属がある。著者の発見は50種以上の新種だけではない。ベトナム北部、マレーシア、インドネシア、タジキスタン、グルジア、ウスリー、パキスタン北部といった遠隔の他の多くの地域における分布情報を更新するなど、植物地理学的研究に資する多大の新知見をもたらしてもいる。なかでもヒイラギナンテン属、ハラン属、イカリソウ属などの属、いわゆる「コウシンバラ」の歴史と起源、そして大輪系クレマチスの研究に大きな貢献をなしてきた。荻巣樹徳は、植物の世界に特筆すべき足跡を残してきた多才のひとである。
英国王立園芸協会副会長 ロイ・ランカスター